雪の匂いにキミとの恋を
でも一番嫌いなのは私自身だ。

わざわざ自分の誕生日にこんな場所にきて、全部を雪と琢磨のせいにして。

琢磨からまた突き放されるのが怖くて傷つくのを恐れて、自分からは電話ひとつかける勇気もでないくせに。

そんな私を笑うかのように丸い小さな雪玉が空から遠慮なく舞い降りて、私の涙と一緒に心にしんしんと哀しみとなって降り積もっていく。 


「……会いたいよ……っ」

もうずっと会いたい。声がききたい。叶うはずのない願いと届かない想いだけが心の中を埋め尽くして苦しくてたまらない。

「琢磨……っ」

掠れた声でその名を言葉に吐いた時だった。

ふいに煙草の匂いが鼻を掠める。そして土を踏み締めながら近づいてくる足音に鼓動が高鳴る。


ゆっくりと振り返ろうすれば──私の体は大きな両腕に包み込まれた。


「……栞菜……おまたせ」

遅れてごめんも連絡しなくてごめんも何にもなしに、ただ私を抱きしめるだけで全てを帳消しにしてしまう琢磨はズルい。

それでもこうやってちゃんと約束を覚えていてくれたことに、私の涙は雪よりも早い速度で落下していく。

「遅いよ……っ」

私は身体ごと振り返ると煙草の匂いのする、彼の大きな背中をぎゅっと抱きしめた。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop