雪の匂いにキミとの恋を
そして、琢磨の懐かしい優しい匂いに顔を埋めながら、これが夢だったらどうしようとすぐに不安になって、私は背の高い琢磨をそっと見上げた。

琢磨はまだ何も言わない。

ただ私の涙を何度も指先で拭って困ったような顔をしているだけだ。

「……なんで……きたの?」

聞きたいことも話したいことも沢山あるのにうまく言葉が出てこない。

琢磨にずっとずっと会いたかったのに口をついて出た可愛くない質問に嫌気がさしてくる。

それでも琢磨は私の髪をそっとすくように撫でるとようやく口を開いた。

「栞菜との……約束だったから。初雪が降ったら会いに行くって」

あっという間に目の奥が熱くなって琢磨が滲む。

「……ばか……」

「ほんと、馬鹿だよな。カッコつけて……栞菜の将来のためとか思って。栞菜にずっとそばにいて欲しかったくせに……バーテンダーっていう自分の夢優先してさ。栞菜の将来を背負う自信がなかったんだ……ごめん」

本当に琢磨は大馬鹿者だ。そもそも、私の将来を背負うなんて考えが間違っている。お金がなくたっていい、一生働きづめだっていい。

私は琢磨の隣じゃないと幸せになれないのに。琢磨の隣でしかきっとちゃんと呼吸(いき)もできないのに。
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