不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。

 *

 私は毎日のように病院に足を運んだ。しかし菫花が病院の敷地内に入ることはない。そっと遠くから病院を眺めるだけ。

「紫門さん……」

 私は病院に向かって一礼すると自分のアパートへと帰った。それが私の毎日の日常となった。
 
 紫門さんが入院してから数ヶ月が経ち、またトレンチコートが必要な季節がやって来た。木の葉が緑から黄色、黄色から赤、赤から茶色に変わり地面に落ちた。それらを散らすように風が吹き、カラカラと音を立てている。私は今日も病院の敷地の外から窓に視線を向ける。そこには紫門さんが立っていた。私に向かっておいでおいでと手招きをしているのが見える。こちらに来いと言っているのだろう。しかし私は首を横に振り頭を下げるとアパートに向かった。

 紫門さんと会話をしなくなってから、私はまた感情を無くしていた。顔の表情筋が本当の意味で死んでしまったかの様に動かない。

 紫門さんの声が聞きたい。

 あの優しい手で頭を撫でられたい。

 神様お願いです。

 あなたの元へ紫門さんを連れて行かないで下さい。




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