不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。

 菫花は体をガタガタと震わせていた。冷たくなっていく体を温めるように両腕を体に巻き付けるが、意味なんて無い。

 怖い……助けて……。

 息を吸うことがうまく出来ない。

 ヒュッヒュッと漏れる息。

 ダメ……このままではまた倒れてしまう。

 酸素を肺に送り込まないと……。

 口を開けハクハクと唇を動かしてみたが、余計に苦しくなって菫花は喉元を抑えた。

 もう無理……。

 ぼやける意識の中、誰かが抱きしめてくれた。

 それは優しくて温かな手。

 その手が背中をゆっくりと撫でてくれる。

 それは既視感を生み、記憶を蘇らせる。

「紫門さん……」

 私の呟きに気づいた副社長が、自分の体から私の身体を引き剥がすと、眉間に深く皺を作った。

「お前……」

 紫門さんの面影をもつその顔で罵声を浴びさせられるのは辛いな、と考えていると副社長の言葉が途切れる。何かを言いかけた副社長は唇を噛みしめていた。

 なぜ何も言わないのだろう?

 高圧的な態度も鳴りを潜めている。

 首を傾げようとしたとき、頬を温かいモノが流れていくのに気づいた。

 これは……。

 私は涙を流していた。




< 25 / 106 >

この作品をシェア

pagetop