不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
菫花は体をガタガタと震わせていた。冷たくなっていく体を温めるように両腕を体に巻き付けるが、意味なんて無い。
怖い……助けて……。
息を吸うことがうまく出来ない。
ヒュッヒュッと漏れる息。
ダメ……このままではまた倒れてしまう。
酸素を肺に送り込まないと……。
口を開けハクハクと唇を動かしてみたが、余計に苦しくなって菫花は喉元を抑えた。
もう無理……。
ぼやける意識の中、誰かが抱きしめてくれた。
それは優しくて温かな手。
その手が背中をゆっくりと撫でてくれる。
それは既視感を生み、記憶を蘇らせる。
「紫門さん……」
私の呟きに気づいた副社長が、自分の体から私の身体を引き剥がすと、眉間に深く皺を作った。
「お前……」
紫門さんの面影をもつその顔で罵声を浴びさせられるのは辛いな、と考えていると副社長の言葉が途切れる。何かを言いかけた副社長は唇を噛みしめていた。
なぜ何も言わないのだろう?
高圧的な態度も鳴りを潜めている。
首を傾げようとしたとき、頬を温かいモノが流れていくのに気づいた。
これは……。
私は涙を流していた。