不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。

 そうか、これのせいで副社長は言葉を止めたのか。

 泣いている女性にそれ以上、冷たい言葉を吐くことに躊躇したのだろう。

 あんなに冷たい態度をとり、侮辱的な言葉を並べても、どこか優しさが見え隠れする。

 懐かしい紫門さんを思わせるこの人は……優しい人だ。

 二人がダブッて涙が止まらない。

 久しぶりの涙は、自分の意思を無視して流れ落ちていく。

 そこに一人の男性がやって来た。

「そこで何をしているの?」

 私と副社長が声の主に視線を向けると、そこには社長が立っていた。社長は私が泣いていることに気づき、悲しそうな顔をしながら副社長に視線を移した。

蒼紫(あおし)、何があった?」

「何も……」

「何もって、この状況でそんなわけが無いだろう?」

「…………」

 社長は何も言おうとしない副社長に向かって、フーッと溜め息を付くと私に微笑んだ。

「菫花さん、泣くことが出来たんだね」

 その言葉に反応したのは私では無く、副社長だった。

「はッ、その女はいつだってウルウルと瞳を潤ませて、男を(あさ)っていただろう」

「蒼紫、お前は何を言っているんだ?」

「そうやって兄さんのことっも誘っているんだろう?」

「そんなわけが無いだろう?お前どうしたんだ?」

「兄さんは何も分かっていない!」

「何をだ?」

「…………」

 社長に問われ、副社長は悔しそうに唇を噛みしめながら俯いた。




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