不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
父はその女性に手招きをしては、悲しそうな顔をしている。どんなに父が手招きをしても、女性はこちらに来る様子は無かった。深々と頭を下げると女性は帰っていく。それを見守りながら、父はいつも悲しげに溜め息を付いていた。
あの女性は一体……。
そんなある日、母が廊下で泣いていた。看護師さんに背中をさすってもらいながらポロポロと泣いていた。父の死期がが近くなっており、日に日に痩せ細っていく父を見ていられないのだろう。泣き崩れる母から漏れ聞こえてくる言葉に俺は絶句した。
「あの人が……噂……不倫……そんな……」
途切れ途切れに聞こえてくる言葉……。
あの父が不倫?
俺はまさにおしどり夫婦と言った父と母の仲睦まじい姿しか見たことが無い。いい年をしていつも手を繋いで出歩いている姿に、思春期の頃は吐き気さえ覚えたほどの仲の良さだ。いつだって父の一番は母で、母の一番は息子の俺達よりも父だった。
その父が不倫?
信じられない……。
頭を鈍器で殴られたような衝撃とはこう言うときに使う言葉なのだろう。
俺はしばらくその場から動けずにいた。