不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
「白川菫花、久しぶりだな?」
背筋がゾクリと震え、冷たい汗が流れ落ちる。
どうしてこの人がここに……。
記憶が過去に引き戻される。
ブラック企業で社畜として飼い慣らされる日々の中で、私を罵倒し続けた人物。その人が今、私の目の前に立っていた。
「桐谷さん……っ……どうして……」
「お前が辞めてからつまれなくてさ。お前は虐めがいがあったからな。くくくっ……壊れていくお前を見るのは楽しかったよ。もっと虐めて俺だけに従順な女にするつもりでいたのに、退職代行なんて頼みやがって」
桐谷の言葉が菫花の心を切り裂いていく。言葉の暴力……体は傷つかなくても、心が傷つき立ち直れなくなりそうだ。今は特に蒼紫からの裏切りを受けてしまっただけに、立ち直れそうに無かった。この人の言葉を聞いてはダメだ。心を閉ざして、聞き流さなくては……。スッと表情を無くした菫花の顔を見た桐谷が、嬉しそうに笑った。
「そうそう、その顔だよ。俺だけがお前を守ってやる。大丈夫だ」
守ってやる……。
それは蒼紫さんに言われた言葉。
蒼紫さんの泣き顔が脳裏に浮かんだ。
「蒼紫……さん……」
私はハッと我に返ると、桐谷を突き飛ばして走り出した。