不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。

 *

 私と紫門さんが出会って半年が過ぎていた。今日はとても暑くて、蝉の鳴き添えがやけに耳につく。夕方だというのに立っているだけで汗が噴き出してきた。それをハンカチで拭き取りながら私は紫門さんを待った。いつもならニコニコとしながら紫門さんはやって来るのだが、今日は辺りが薄暗くなってきても紫門さんは姿を現さなかった。
 
 どうしたのだろう……。

 不安が押し寄せる。

「紫門さん……」

 不安から紫門さんの名を声に出した時、優しい声が聞こえてきた。

「菫花さん、遅くなってすまない」

「紫門さん!」

 私は紫門さんの名を呼びながら抱きついた。

「良かった……何かあったのかと……」

「すまない。心配させてしまったんだね」

 紫門さんは優しく私の頭を撫でてくれた。

 安心する。




< 9 / 106 >

この作品をシェア

pagetop