【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
 きっと自分たちも同じ目に遭う。それを悟ったサマンサの顔は一気に青ざめた。
 こんなに裕福な暮らしができているのはブロムベルク家が代々公爵の地位にあり、王宮で公務を執り行っているマルセルに十分すぎるほどの俸禄が支払われているからだ。
 貧しい暮らしをしたことがない貴族が、いきなり土地や屋敷などすべての財産を没収されて平民に落とされたら、どうやって生きていけばいいのかわからない。

「一週間後、カリナを連れて皇帝陛下にご挨拶する予定だ。それまでに見つけないと……」
「……あの子、バカなこと考えていないわよね?」
「縁起でもない。遠くへ行くと書いてあるだろう。必ず生きてる」

 マルセルが泣き崩れそうになるサマンサを支えるようにしながら背中をさすった。

「人捜しのプロを雇って秘密裏にカリナを捜させる。フィオラ、今の話をシビーユに伝えた上で使用人たちに箝口令(かんこうれい)を敷いてくれ」
「承知いたしました」

 もちろん公言はしていないが、マルセルが裏社会の人間たちと繋がっていることは使用人たちもなんとなくわかっていた。おそらく今回も大金を支払って仕事を頼むのだと思う。
 全員がカリナの安否を心配していたので、その方法に異を唱える者は誰もいなかった。
 外の人間に知られないよう、使用人たちもあえて普段通りに自分たちの仕事をこなした。カリナの無事を祈りながら。
 しかし数日が過ぎてもカリナは行方不明のままで、これといった情報も得られていない。

 屋敷には常に重苦しい空気が流れる中、フィオラはマルセルとサマンサに呼び出された。
 マルセルの部屋に入ると「まぁ、座りなさい」と言われたので椅子に腰を下ろしたものの、ふたりを前にしてなんともいえない異様な雰囲気をすぐに感じ取った。

「あの……旦那様、どのようなご用向きでしょうか?」

 しばらく黙り込んでいたマルセルがサマンサと目を合わせたあと、意を決して口を開いた。

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