【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「兄上、その本を返してください。私の母の形見です」
ある日ミシュロが一冊の本を手にして王宮内を歩いていた。
サイラスはすぐにそれがマリアンナの持ち物だとわかり、追いかけて声をかけた。ミシュロがサイラスの部屋から勝手に持ち出したのだろう。
「は? これは俺のだ」
「いえ。母が気に入っていた本です。しおりが挟まれたままなので間違いありません」
このときミシュロは十四歳。四歳年下のサイラスを生意気だとばかりに睨みつけた。
「聞こえなかったのか? 俺の本なんだよ!」
圧倒的に身体の大きさが違ったが、サイラスは怯まずに一歩も引かなかった。
たとえ殴られても構わない。母親の形見を返してほしいだけだ。
「この国では正妃の子である嫡男が皇太子になると決められている。成人すれば俺が皇太子、つまり次期皇帝だ。それに比べてお前は側妃の子、庶子だろ。異母兄弟でも俺とお前では身分が違うんだよ!」
「今それは関係ないですよね」
「口答えするな!」
ミシュロが右手の指先を使ってサイラスの額を小突いた。ふらついたサイラスは後ろに後ずさってしまう。
「お前の母親が色目を使って父上をたぶらかしたせいで、母上は正妃でありながら不愉快な思いをしてきたんだぞ?」
「お言葉ですが私の母もそうでした。おそらく皇后様の何倍もつらい思いを……」
言い過ぎたと口をつぐんだが遅かった。ミシュロの表情が怒りに満ちていく。
庇ってくれる母はもういない。兄は本当に手を挙げるかもしれないなと子どもながらに不安が押し寄せてくる。
ある日ミシュロが一冊の本を手にして王宮内を歩いていた。
サイラスはすぐにそれがマリアンナの持ち物だとわかり、追いかけて声をかけた。ミシュロがサイラスの部屋から勝手に持ち出したのだろう。
「は? これは俺のだ」
「いえ。母が気に入っていた本です。しおりが挟まれたままなので間違いありません」
このときミシュロは十四歳。四歳年下のサイラスを生意気だとばかりに睨みつけた。
「聞こえなかったのか? 俺の本なんだよ!」
圧倒的に身体の大きさが違ったが、サイラスは怯まずに一歩も引かなかった。
たとえ殴られても構わない。母親の形見を返してほしいだけだ。
「この国では正妃の子である嫡男が皇太子になると決められている。成人すれば俺が皇太子、つまり次期皇帝だ。それに比べてお前は側妃の子、庶子だろ。異母兄弟でも俺とお前では身分が違うんだよ!」
「今それは関係ないですよね」
「口答えするな!」
ミシュロが右手の指先を使ってサイラスの額を小突いた。ふらついたサイラスは後ろに後ずさってしまう。
「お前の母親が色目を使って父上をたぶらかしたせいで、母上は正妃でありながら不愉快な思いをしてきたんだぞ?」
「お言葉ですが私の母もそうでした。おそらく皇后様の何倍もつらい思いを……」
言い過ぎたと口をつぐんだが遅かった。ミシュロの表情が怒りに満ちていく。
庇ってくれる母はもういない。兄は本当に手を挙げるかもしれないなと子どもながらに不安が押し寄せてくる。