【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「あなたたち、こんなところでなにをしているの?」
颯爽と歩いてきて声をかけたのは皇后だった。
ミシュロが大声を出して騒いだので、使用人の誰かが皇后の耳に入れたのだろう。
「母上、なんでもありません。コイツが生意気なのでつい……」
「なんでもなくないです。兄上が持っているのは母の本なので、返してほしいとお願いしていました」
サイラスが懇願するように真実を口にすると、ミシュロが再び鬼の形相で睨みつけた。
やれやれとばかりに皇后は眉間にシワを寄せ、ミシュロが左手で抱えていた厚みのある本に視線を移す。
「ミシュロ、そんな汚らしいものは要らないわ。返しなさい」
「ですが母上……」
「同じ本を買えばいいでしょう!」
マリアンナが何度も何度も読んでいたため、背表紙には自然と付いた細かい傷がある。
そんな古めかしい本をわざわざ横取りしなくてもいいのにと、皇后はミシュロの行動にあきれていた。
それに、マリアンナの愛読書だったと聞いてしまった今は、その本を目にするだけでもマリアンナの顔が浮かんできて嫌だったのだ。
「本の一冊や二冊で言い合いになるなんて。皇子の振る舞いとは思えないわ。サイラスは礼儀をわきまえなさい」
「……申し訳ありません。私はその本さえこちらに戻してもらえれば……」
自分はなにも悪くない。サイラスは内心そう思ったが、ていねいに頭を下げた。
十歳の少年である彼が謝罪の言葉を口にしても皇后の怒りは収まらなかった。最後の言葉が言い訳のように聞こえて気に入らなかったのだ。
「いつまでもしつこく同じことを」
吐き捨てるように言い、皇后はミシュロの左手から本を奪い取った。
颯爽と歩いてきて声をかけたのは皇后だった。
ミシュロが大声を出して騒いだので、使用人の誰かが皇后の耳に入れたのだろう。
「母上、なんでもありません。コイツが生意気なのでつい……」
「なんでもなくないです。兄上が持っているのは母の本なので、返してほしいとお願いしていました」
サイラスが懇願するように真実を口にすると、ミシュロが再び鬼の形相で睨みつけた。
やれやれとばかりに皇后は眉間にシワを寄せ、ミシュロが左手で抱えていた厚みのある本に視線を移す。
「ミシュロ、そんな汚らしいものは要らないわ。返しなさい」
「ですが母上……」
「同じ本を買えばいいでしょう!」
マリアンナが何度も何度も読んでいたため、背表紙には自然と付いた細かい傷がある。
そんな古めかしい本をわざわざ横取りしなくてもいいのにと、皇后はミシュロの行動にあきれていた。
それに、マリアンナの愛読書だったと聞いてしまった今は、その本を目にするだけでもマリアンナの顔が浮かんできて嫌だったのだ。
「本の一冊や二冊で言い合いになるなんて。皇子の振る舞いとは思えないわ。サイラスは礼儀をわきまえなさい」
「……申し訳ありません。私はその本さえこちらに戻してもらえれば……」
自分はなにも悪くない。サイラスは内心そう思ったが、ていねいに頭を下げた。
十歳の少年である彼が謝罪の言葉を口にしても皇后の怒りは収まらなかった。最後の言葉が言い訳のように聞こえて気に入らなかったのだ。
「いつまでもしつこく同じことを」
吐き捨てるように言い、皇后はミシュロの左手から本を奪い取った。