【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「今からふたりで会いに行こうか」
「え?!」
「実は……天気がいいからどこかへ出かけないかと誘いにきたんだ。ちょうどいい」
会いたい。久しぶりに会って、笑顔で話がしたい。だけど今の状況では許されない。
切なくもどかしい気持ちになったフィオラは静かに視線を下げた。
「侍女の実家はここから遠いですよ? それにサイラス様はこの国の第二皇子です。いきなり訪ねたら驚かせてしまいますわ」
「たしかにな。悪い噂がある俺は嫌われているだろうから」
「決してそう言う意味で申し上げたのではありません」
至極真面目な顔であわてるフィオラとは反対に、サイラスは肩を揺らしてクツクツと笑う。
「すまない。そんなに真剣に受け止めるな」
サイラスが大きな左手を伸ばしてフィオラの頭をポンポンとやさしくなでる。
意表を突かれた彼女は一瞬で身を固くして、頬を真っ赤に染め上げた。
「照れてるカリナもかわいいな」
「からかわないでください」
「いや、本気で言ってるんだが」
ドキドキと胸が高鳴ってキュンとする。サイラスがいつも紳士的で見惚れるほどカッコいいせいだ。その上、甘い言葉まで口にされたら普通にしていられない。
今までほかの誰にも抱いたことのないこの感情の名が“恋”なのだと、フィオラは自覚し始めていた。
逃れられない運命だったとあきらめて、決死の覚悟で結婚したフィオラだったが、怯えて暮らすこともなくローズ宮の中ではなんでも自由にできている。
先日は得意満面にマドレーヌを焼いて使用人たちにふるまったりもした。
こんなふうに暮らせているのはすべてサイラスのおかげだ。
身代わりの分際で“幸せ”などと感じてはいけないのに、自分がサイラスの妻になれてよかったと思ってしまっている。
「じゃあ、湖のあたりを散策しないか? ここからそんなに遠くない」
「はい。よろこんでお供いたします」
「馬車を用意させよう」
気分転換させてやろうとサイラスが気遣ってくれた。フィオラはそう理解した。
「え?!」
「実は……天気がいいからどこかへ出かけないかと誘いにきたんだ。ちょうどいい」
会いたい。久しぶりに会って、笑顔で話がしたい。だけど今の状況では許されない。
切なくもどかしい気持ちになったフィオラは静かに視線を下げた。
「侍女の実家はここから遠いですよ? それにサイラス様はこの国の第二皇子です。いきなり訪ねたら驚かせてしまいますわ」
「たしかにな。悪い噂がある俺は嫌われているだろうから」
「決してそう言う意味で申し上げたのではありません」
至極真面目な顔であわてるフィオラとは反対に、サイラスは肩を揺らしてクツクツと笑う。
「すまない。そんなに真剣に受け止めるな」
サイラスが大きな左手を伸ばしてフィオラの頭をポンポンとやさしくなでる。
意表を突かれた彼女は一瞬で身を固くして、頬を真っ赤に染め上げた。
「照れてるカリナもかわいいな」
「からかわないでください」
「いや、本気で言ってるんだが」
ドキドキと胸が高鳴ってキュンとする。サイラスがいつも紳士的で見惚れるほどカッコいいせいだ。その上、甘い言葉まで口にされたら普通にしていられない。
今までほかの誰にも抱いたことのないこの感情の名が“恋”なのだと、フィオラは自覚し始めていた。
逃れられない運命だったとあきらめて、決死の覚悟で結婚したフィオラだったが、怯えて暮らすこともなくローズ宮の中ではなんでも自由にできている。
先日は得意満面にマドレーヌを焼いて使用人たちにふるまったりもした。
こんなふうに暮らせているのはすべてサイラスのおかげだ。
身代わりの分際で“幸せ”などと感じてはいけないのに、自分がサイラスの妻になれてよかったと思ってしまっている。
「じゃあ、湖のあたりを散策しないか? ここからそんなに遠くない」
「はい。よろこんでお供いたします」
「馬車を用意させよう」
気分転換させてやろうとサイラスが気遣ってくれた。フィオラはそう理解した。