【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
嬉々としながら支度をしていると、クリスタル宮から使いの者が来ていると知らせが入る。
玄関ホールで待っていたのは皇后の侍女をしているという四十代くらいの女性だった。
「午後に皇后様がお茶会を開かれるので、ぜひカリナ様もご出席をとのことです」
「え?!」
どういう風の吹き回しだろう。結婚してから一度も誘われなかったのにとフィオラは驚きながら絶句した。
サイラスと同じように、皇后からはずっと無視され続けるのだと思い込んでいたからだ。
「それは……今日なの?」
「はい。お茶会が行われる広間にはピアノがありますから、ぜひともカリナ様に一曲弾いていただきたいと皇后さまが仰せです」
……ピアノ。本物のカリナは上手に弾けたけれど、フィオラは鍵盤を触ったことすらない。
どう言い逃れをしようかと考えていたら顔が引きつって唇が震えてきた。
「カリナ様、私を覚えておいでですか? 以前に一度お会いしたと思うのですが」
「……いいえ。あなたと話すのは今が初めてよ」
「私はかつてジェラルダン公爵様のお屋敷で使用人をしていたのです。五年ほど前ですが、お茶会に来られたカリナ様とお話させてもらいました。ピアノが本当にお上手でしたね」
目の前の女性は本物のカリナを知る人物だった。
自分が偽者だとは絶対に認めてはいけないと考えれば考えるほどうろたえて、心臓が壊れそうなくらいに心拍数が上がっていく。
「あの……大変失礼とは存じますが、本当にブロムベルク公爵様のお嬢様でしょうか?」
「どういう意味かしら?」
「カリナ様の瞳の色はもう少し灰色がかっていました。というより、そもそもお顔立ちが違うような……」
じろじろと疑いの眼差しが容赦なく突き刺さる。
ピアノのことで揺さぶりをかけたらどういう反応をするか見てくるように、皇后から指示されたのだろうか。
「無礼極まりないな」
周囲が凍りつくほど冷たくはっきりとした声が背後から聞こえ、振り向くとサイラスが侍女を睨みつけていた。
玄関ホールで待っていたのは皇后の侍女をしているという四十代くらいの女性だった。
「午後に皇后様がお茶会を開かれるので、ぜひカリナ様もご出席をとのことです」
「え?!」
どういう風の吹き回しだろう。結婚してから一度も誘われなかったのにとフィオラは驚きながら絶句した。
サイラスと同じように、皇后からはずっと無視され続けるのだと思い込んでいたからだ。
「それは……今日なの?」
「はい。お茶会が行われる広間にはピアノがありますから、ぜひともカリナ様に一曲弾いていただきたいと皇后さまが仰せです」
……ピアノ。本物のカリナは上手に弾けたけれど、フィオラは鍵盤を触ったことすらない。
どう言い逃れをしようかと考えていたら顔が引きつって唇が震えてきた。
「カリナ様、私を覚えておいでですか? 以前に一度お会いしたと思うのですが」
「……いいえ。あなたと話すのは今が初めてよ」
「私はかつてジェラルダン公爵様のお屋敷で使用人をしていたのです。五年ほど前ですが、お茶会に来られたカリナ様とお話させてもらいました。ピアノが本当にお上手でしたね」
目の前の女性は本物のカリナを知る人物だった。
自分が偽者だとは絶対に認めてはいけないと考えれば考えるほどうろたえて、心臓が壊れそうなくらいに心拍数が上がっていく。
「あの……大変失礼とは存じますが、本当にブロムベルク公爵様のお嬢様でしょうか?」
「どういう意味かしら?」
「カリナ様の瞳の色はもう少し灰色がかっていました。というより、そもそもお顔立ちが違うような……」
じろじろと疑いの眼差しが容赦なく突き刺さる。
ピアノのことで揺さぶりをかけたらどういう反応をするか見てくるように、皇后から指示されたのだろうか。
「無礼極まりないな」
周囲が凍りつくほど冷たくはっきりとした声が背後から聞こえ、振り向くとサイラスが侍女を睨みつけていた。