【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「第二皇子である俺の妻に疑いをかけるなどあってはならない。不敬にもほどがある!」

 凄味のある低い声で叱責された侍女は、一瞬で顔を真っ青にして頭を下げた。
 今すぐにでもひどい罰を受けると言わんばかりに怯えた表情だ。

「申し訳ございません。お許しください!」
「茶会は欠席だ。皇后様にはそう伝えろ」
「しかし……」
「それと、お前は二度と俺たちに顔を見せるな。ローズ宮への立ち入りを禁ずる」

 サイラスがフィオラの手を引きながら踵を返して歩き出す。
 廊下を通って中庭に出たところでようやく歩みを止め、フィオラの両肩を掴んで正面から顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

 先ほどの冷たい声を発していたサイラスはもうどこにもいない。
 緊張が解けたフィオラはうなずくと共に涙目になった。
 それを見たサイラスは居た堪れない気持ちになり、フィオラを胸に閉じ込めるようにしてギュッと抱きしめた。

「そんなに動揺したらなにもかもバレるぞ?」

 耳元でそう囁かれた瞬間、フィオラは血の気が引いてめまいを覚えた。

「え……あ、あの……」
「気を取り直して湖の美しい景色を見に行こう」

 ふわりと微笑むサイラスに合わせるように、フィオラは愛想笑いをするしかない。
 
(今のはどういう意味だろう。もしかしたらサイラス様は……)

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