【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「いつから……気づかれていたのですか?」
「最初のころからなんとなく。なんでも好きなことをしていいと言っただろう? てっきりピアノを弾くものだと思っていたが、君はまったく興味を示さなかった。貴族の令嬢が好む煌びやかなドレスや宝飾品にも」
ローズ宮には立派なグランドピアノが置いてあるけれど、弾けと言われたら困るので近づきもしなかった。それを不思議がられているとは思いもせずに。
「厨房で菓子を作ったときは相当手際がよかったと聞いた。まるでいつも家事をしているかのようだったと。それと、ドレスの裾のほつれを自分で直したらしいな。リージヤが驚いていた」
サイラスが使用人たちから疎まれていないのはわかっていたが、ずいぶん親しくしていることにフィオラは驚かされた。あらゆる行動がすべて筒抜けだ。
「考えた結果、謎が解けた。困り果てたマルセル公が身代わりを寄こしたのだと」
フィオラは無意識にギリリと奥歯をかみしめた。
『この件は口が裂けても絶対に他言するな。漏らせば全員の首が飛ぶ』
マルセルと固く交わした約束を破ってしまった今、自分が口を割ったせいでどれだけの人間が罰を受けるのかを想像したら卒倒しそうだ。
「君はカリナじゃない。本当の名前は?」
「私は大罪人です。名などお知りにならなくても……」
「いいじゃないか、教えてくれよ」
アクアマリンのように透き通った綺麗な瞳に射貫かれ、こんな状況にも拘わらず胸がトクンと高鳴った。
「……フィオラ、です。カリナ様の専属侍女の」
自分が何者なのか説明を付け加えると、家の事情で辞めたと言っていた侍女だとサイラスも頭の中で繋がったようだ。
「フィオラ。ふたりのときはこれからそう呼ぼう。で、本物のカリナは?」
「突然いなくなられて、行方不明のままです」
それにはさほど驚きもせず、サイラスは小さくうなずいていた。
「最初のころからなんとなく。なんでも好きなことをしていいと言っただろう? てっきりピアノを弾くものだと思っていたが、君はまったく興味を示さなかった。貴族の令嬢が好む煌びやかなドレスや宝飾品にも」
ローズ宮には立派なグランドピアノが置いてあるけれど、弾けと言われたら困るので近づきもしなかった。それを不思議がられているとは思いもせずに。
「厨房で菓子を作ったときは相当手際がよかったと聞いた。まるでいつも家事をしているかのようだったと。それと、ドレスの裾のほつれを自分で直したらしいな。リージヤが驚いていた」
サイラスが使用人たちから疎まれていないのはわかっていたが、ずいぶん親しくしていることにフィオラは驚かされた。あらゆる行動がすべて筒抜けだ。
「考えた結果、謎が解けた。困り果てたマルセル公が身代わりを寄こしたのだと」
フィオラは無意識にギリリと奥歯をかみしめた。
『この件は口が裂けても絶対に他言するな。漏らせば全員の首が飛ぶ』
マルセルと固く交わした約束を破ってしまった今、自分が口を割ったせいでどれだけの人間が罰を受けるのかを想像したら卒倒しそうだ。
「君はカリナじゃない。本当の名前は?」
「私は大罪人です。名などお知りにならなくても……」
「いいじゃないか、教えてくれよ」
アクアマリンのように透き通った綺麗な瞳に射貫かれ、こんな状況にも拘わらず胸がトクンと高鳴った。
「……フィオラ、です。カリナ様の専属侍女の」
自分が何者なのか説明を付け加えると、家の事情で辞めたと言っていた侍女だとサイラスも頭の中で繋がったようだ。
「フィオラ。ふたりのときはこれからそう呼ぼう。で、本物のカリナは?」
「突然いなくなられて、行方不明のままです」
それにはさほど驚きもせず、サイラスは小さくうなずいていた。