【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「それで?」
「先日、おふたりが密通された事実が明らかになりました」
「密通?! すでに一夜を共にしたと?」
「その通りです」

 なんということだ。実の父親である皇帝の側妃に手を付けるなどあってはならない。
 コーベットがわざわざ足を運んできたのには理由があると思っていたが、宮中でのドロドロとした騒動の内容にスヴァンテは驚嘆した。

「シルフィア妃のほうからアプローチしてきたとミシュロ殿下は主張されましたが、それは逆で、殿下は初めからシルフィア妃を気に入って接近しようとしていました」
「下手な言い訳をしたものだな」

 皇帝の側妃を寝取ったのだ。息子と言えどただでは済まない。大それたことをしたと後悔してももう遅い。
 事が事だけに、皇后が床に伏せってしまうのも無理はないとスヴァンテは納得した。
 皇族たちの歴史を振り返ってみても、稀に見る大スキャンダルなのだから。

「兄上は今どうしている?」
「ビデンス宮での蟄居を言い渡されたので、正式な沙汰があるまでそちらにおられるようです」

 ビデンス宮は皇帝が所有している宮殿だ。とはいえ片田舎にある古い建物で、宮殿とは呼べないほどの小さい屋敷らしい。
 コーベットはスヴァンテにやわらかい言い方で伝えたけれど、要するにミシュロはそこへ幽閉されたのだ。

「シルフィア妃のほうは、どうやら離れ小島での重禁錮刑に処せられそうです」
「兄上に目をつけられて災難だな」

 ある意味彼女も不幸だと、スヴァンテはシルフィア妃を思いやった。
 側妃として王宮へ輿入れせず、ほかの貴族の男性と結婚していればこんな目には合わなかったのに、と。
 しかしいくらミシュロが強引だったとしても、一夜を共にしたのはまずかった。彼女はきっと、その小島から一生出られない。

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