【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
 スヴァンテは使用人を行かせたあと、フィオラの部屋の扉をノックした。彼女は読書中だったらしい。

「スヴァンテ様、なにかありましたか?」

 自然とむずかしい顔になっているスヴァンテが気になって、フィオラは首をかしげながら上目遣いで尋ねた。

「どうか落ち着いて聞いてほしい」

 スヴァンテはフィオラを椅子に座らせ、先ほどコーベットと話した内容を包み隠さずにそのまま話して聞かせた。
 フィオラの顔がみるみるうちに不安色に染まっていく。それでもスヴァンテはすべてを打ち明けるしかなく、彼女の両手をギュッと握った。

「フィオラ、俺はどうやらここまでのようだ」
「え?」
「元のスヴァンテ・ボルツマンに戻る」

 考えあぐねた末にスヴァンテが出した答えはそれだった。
 このままローズ宮でフィオラと共にひっそりと一生を終えるのなら、ずっと身代わりでも構わないと思ってきたけれど、事情が変わった。
 再び入れ替わるなら今、ということなのだろう。スヴァンテはそう理解した。機会がやってきたのだ。

「大丈夫なのですか?」
「ああ。君はこのままカリナのふりをしていればいい。その秘密は守るから」
「違います。私が案じているのはスヴァンテ様のことです」

 フィオラは悲痛な面持ちをしてスヴァンテをじっと見つめた。
 こんな状況になっても自分より相手の心配をするフィオラを見て、スヴァンテは心の底から愛しい感情が湧いてくる。

「君は本当にかわいいな」
「かわいいだなんて、そんな……」

 世界中を敵に回しても、フィオラさえ味方でいてくれたらそれでいいとすら思えた瞬間だった。

「大丈夫だ。サイラス様に手紙を差し上げた。あの方はきっと俺の意思を尊重してくださる」
「サイラス様を信じていらっしゃるのですね」

 スヴァンテが小さく笑みをたたえてうなずく。
 フィオラは本物のサイラスに会ったことはないが、彼が信頼を寄せている人物なら自分も信じようと思った。

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