【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
 数日後には皇帝に謁見する日程が決まり、当日の朝を迎えた。
 窓から日の光がキラキラと差し込む中、フィオラはクローゼットから一番気品のあるドレスを選び、それに初めて袖を通す。
 これからスヴァンテと共にクリスタル宮へ赴いたあとは、どうなるにせよ今まで通りの暮らしはできないだろう。
 メイクを終えたフィオラは鏡の前でふうっと息を吐き、覚悟を決めてスヴァンテが待つ馬車に乗り込んだ。

 クリスタル宮に到着したふたりは大広間に通された。フィオラが初めて皇帝と顔を合わせた場所だ。
 玉座に座る皇帝の近く、一段下がった場所に皇后の姿もあった。意気阻喪(いきそそう)していて顔色がよくない。

「偉大なる皇帝陛下と皇后様にご挨拶申し上げます」

 スヴァンテが真正面を向き、凛とした声を張り上げて口上を述べる。
 フィオラは彼の斜め後ろの位置でスカートの裾を持ち上げ、気持ちを引き締めながら頭を下げた。
 床に敷き詰められた大理石が自然と視界に入り、今日はそれが一段と冷たそうに感じた。

「堅苦しい挨拶はいい。コーベットから聞いているな?」
「はい。大まかには」

 皇帝は右腕を椅子の肘掛けに置き、力なく肩を落とした。今回のスキャンダルで相当神経をすり減らしているようだ。

「ミシュロを廃太子にした。第二皇子であるお前が皇太子に就け。国の規定だ」

 誰が反対しようとも変える意思はないとばかりに、皇帝ははっきりとした口調でそう告げた。

「陛下、その前にお話がございます」
「話?」

 真剣なまなざしを向けられた皇帝は無下にもできず、あきらめたように続きを促した。
 するとスヴァンテは自身の後頭部にある紐の結び目に手をかけて顔を覆っている仮面を取り去った。

「やめなさい! 見苦しいわ!」

 口を挟んだのは皇后だった。仮面の下に隠された頬の傷を見ると昔の記憶がよみがえるから嫌だったのだ。
 けれどそう叫んだ直後、彼の顔に傷がないとわかって驚きの表情に変わった。
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