【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「暴言はそのへんで辞めておかれたらどうですか? 皇后様ともあろうお方が見苦しいですよ」
大広間の左側にある扉が開き、ひとりの人物が颯爽と歩いてきた。
ブラウン色の髪をした眉目秀麗な男性。フィオラはそれが誰なのかすぐにわかった。スヴァンテと雰囲気がよく似ていたから。
皇后が苦虫をかみつぶしたような顔を向ける中、男性は薄く笑いつつ皇帝と皇后の正面で片膝をついて右手を胸に当てる。
スヴァンテとフィオラはそれを後ろから見守った。
「改めまして、偉大なる皇帝陛下と皇后様にご挨拶申し上げます。サイラスにございます」
威厳のある彼の声にはその場にいた皆が圧倒された。
まがまがしい空気を切り裂いてくれたおかげで雰囲気が一変したのだ。
「待ちなさい。お前が本物のサイラス?」
スヴァンテをサイラスだと思い込まされていた皇后は、今度も偽者ではないかと疑った。何度も騙されては恥の上塗りだから。
「本物ですよ、皇后様。長らくお会いしていませんのでお忘れですか?」
「か……顔の傷はどうしたのだ」
皇后は当惑を隠しつつ、つぶやくような小さな声で尋ねた。
「頬の傷痕は年月と共に薄くなりました。今ではよく見ないとわからないほどです」
サイラスは左頬を指で触りながら立ち上がり、意味深な笑みを浮かべた。
「それではお前が本物だという証拠にはならぬ」
「証拠、ですか。皇后様はブルーベリーパイがお好きでしたよね。飲み物はベルガモットティー、宝石なら翡翠とアメジストがお好みでした。夏の暑さが苦手で、よく侍女たちに扇子で仰がせていたのを覚えております」
自分の好きなものや苦手なものをズバリ言い当てられ、皇后は押し黙るしかなかった。
そういった情報は事前に誰かから入手していた可能性も考えられるが、見れば見るほど顔立ちがマリアンナに似ていることに気づいて本物だと認めざるをえなくなったのだ。
大広間の左側にある扉が開き、ひとりの人物が颯爽と歩いてきた。
ブラウン色の髪をした眉目秀麗な男性。フィオラはそれが誰なのかすぐにわかった。スヴァンテと雰囲気がよく似ていたから。
皇后が苦虫をかみつぶしたような顔を向ける中、男性は薄く笑いつつ皇帝と皇后の正面で片膝をついて右手を胸に当てる。
スヴァンテとフィオラはそれを後ろから見守った。
「改めまして、偉大なる皇帝陛下と皇后様にご挨拶申し上げます。サイラスにございます」
威厳のある彼の声にはその場にいた皆が圧倒された。
まがまがしい空気を切り裂いてくれたおかげで雰囲気が一変したのだ。
「待ちなさい。お前が本物のサイラス?」
スヴァンテをサイラスだと思い込まされていた皇后は、今度も偽者ではないかと疑った。何度も騙されては恥の上塗りだから。
「本物ですよ、皇后様。長らくお会いしていませんのでお忘れですか?」
「か……顔の傷はどうしたのだ」
皇后は当惑を隠しつつ、つぶやくような小さな声で尋ねた。
「頬の傷痕は年月と共に薄くなりました。今ではよく見ないとわからないほどです」
サイラスは左頬を指で触りながら立ち上がり、意味深な笑みを浮かべた。
「それではお前が本物だという証拠にはならぬ」
「証拠、ですか。皇后様はブルーベリーパイがお好きでしたよね。飲み物はベルガモットティー、宝石なら翡翠とアメジストがお好みでした。夏の暑さが苦手で、よく侍女たちに扇子で仰がせていたのを覚えております」
自分の好きなものや苦手なものをズバリ言い当てられ、皇后は押し黙るしかなかった。
そういった情報は事前に誰かから入手していた可能性も考えられるが、見れば見るほど顔立ちがマリアンナに似ていることに気づいて本物だと認めざるをえなくなったのだ。