【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「それはいったいいつの話だ?」
「私が五歳のころにひどい食中毒で苦しんだときです。あれはやはり毒でした。そのあとすぐに辞めていった皇后様付きの侍女が指示を受けたと、長い年月をかけて証拠を掴みました」
サイラスが感情の起伏なく淡々と事実だけを話しだすと、皇后は唇をわなわなと震わせた。
「言いがかりはよしなさい。事実無根よ!」
「侍女が日記に残していたんですよ。母に盛るはずだった毒を、間違えて私の料理の皿に盛ってしまったと。しかも直前で恐ろしくなって毒の量を控えたのだと書いてありました」
盛られた毒は微量だったが、まだ小さな子どもだったサイラスの身体に与える影響は甚大だった。
もしも侍女が指示された通りの量を盛っていたら、サイラスの命を奪っていたかもしれない。
皇后が本当に消えて欲しかったのはマリアンナ妃のほうだったけれど。
「ご自分の悪事を認めたくないですか。でも、あなたが宮廷医に口止めをしたのもこちらは知ってるんです」
なにもかも調べられているとわかった皇后はなにも反論できなくなり、視線をさまよわせて動揺した。
大人になったサイラスが細部にわたって事実を突き止めるとは思ってもいなかった。こうなると、勝手な妄言だと主張しても誰も信じない。
「年端も行かぬ子どもだった私まで殺めるのはさすがに気が引けたのですよね? 皇太子の座は嫡男の兄上だと決まったも同然でしたし、標的は母だけでよかった」
じっと耳を傾けていた皇帝だったが、放心状態で「もういい」と口にした。
後ろで聞いていたフィオラは話が衝撃的すぎて固まっていたのだけれど、皇帝はさほど驚いた顔を見せず、肩を落としていた。
「やはりそうだったか。あのとき不自然な体調不良を疑って宮廷医に聞き取りをした。だが、国母である皇后の仕業だと思いたくなくて、医者たちのウソを鵜呑みにしてしまった」
皇帝は自分の正妻が嫉妬に狂った上、恐ろしい企てをしたことを隠したかったのだ。
「皇后には即刻ビデンス宮へ蟄居を言い渡す」
「陛下……あの……」
「口を閉じよ。本来ならお前とミシュロは斬首刑でもおかしくない大罪を犯しているのだ。しかしすべてを明るみになどできない。皇族の……国家の恥だ」
皇后が斬首刑になれば愚妻として歴史に名が残り、汚辱にまみれる。
なので完全な赦免とまではいかないものの、ビデンス宮への幽閉はかなりの減刑に値する。これは皇帝がかけた最後の情けだ。
泣き崩れる皇后の元へ使用人たちが近づいていき、身体を支えられながら大広間の外へ出て行った。
「私が五歳のころにひどい食中毒で苦しんだときです。あれはやはり毒でした。そのあとすぐに辞めていった皇后様付きの侍女が指示を受けたと、長い年月をかけて証拠を掴みました」
サイラスが感情の起伏なく淡々と事実だけを話しだすと、皇后は唇をわなわなと震わせた。
「言いがかりはよしなさい。事実無根よ!」
「侍女が日記に残していたんですよ。母に盛るはずだった毒を、間違えて私の料理の皿に盛ってしまったと。しかも直前で恐ろしくなって毒の量を控えたのだと書いてありました」
盛られた毒は微量だったが、まだ小さな子どもだったサイラスの身体に与える影響は甚大だった。
もしも侍女が指示された通りの量を盛っていたら、サイラスの命を奪っていたかもしれない。
皇后が本当に消えて欲しかったのはマリアンナ妃のほうだったけれど。
「ご自分の悪事を認めたくないですか。でも、あなたが宮廷医に口止めをしたのもこちらは知ってるんです」
なにもかも調べられているとわかった皇后はなにも反論できなくなり、視線をさまよわせて動揺した。
大人になったサイラスが細部にわたって事実を突き止めるとは思ってもいなかった。こうなると、勝手な妄言だと主張しても誰も信じない。
「年端も行かぬ子どもだった私まで殺めるのはさすがに気が引けたのですよね? 皇太子の座は嫡男の兄上だと決まったも同然でしたし、標的は母だけでよかった」
じっと耳を傾けていた皇帝だったが、放心状態で「もういい」と口にした。
後ろで聞いていたフィオラは話が衝撃的すぎて固まっていたのだけれど、皇帝はさほど驚いた顔を見せず、肩を落としていた。
「やはりそうだったか。あのとき不自然な体調不良を疑って宮廷医に聞き取りをした。だが、国母である皇后の仕業だと思いたくなくて、医者たちのウソを鵜呑みにしてしまった」
皇帝は自分の正妻が嫉妬に狂った上、恐ろしい企てをしたことを隠したかったのだ。
「皇后には即刻ビデンス宮へ蟄居を言い渡す」
「陛下……あの……」
「口を閉じよ。本来ならお前とミシュロは斬首刑でもおかしくない大罪を犯しているのだ。しかしすべてを明るみになどできない。皇族の……国家の恥だ」
皇后が斬首刑になれば愚妻として歴史に名が残り、汚辱にまみれる。
なので完全な赦免とまではいかないものの、ビデンス宮への幽閉はかなりの減刑に値する。これは皇帝がかけた最後の情けだ。
泣き崩れる皇后の元へ使用人たちが近づいていき、身体を支えられながら大広間の外へ出て行った。