【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
 翌日、皇帝からブロムベルク家にすぐに連絡が行ったのか、シビーユが血相を変えてローズ宮を訪ねてきた。

「シビーユさん、ちょうどよかったです。旦那様のお屋敷に荷物を戻したくて……」

 部屋でふたりきりになると、フィオラの言葉を聞いたシビーユは神妙な面持ちで彼女を見つめた。

「どうなっているの。第二皇子が偽者だったから結婚が白紙だなんて。旦那様も奥様も目を白黒させていらっしゃるわ」

 誰が聞いているかわからないというようにシビーユが声をひそめる。フィオラはそれに苦笑いを返すしかできなかった。

「実はこちらもあなたに報告があるの。少し前なんだけど、カリナお嬢様の居所がわかったの」
「え?! じゃあ、お嬢様は屋敷に戻ってこられるのですか?」

 娘を溺愛するマルセルだ。こっそりと屋敷に連れ戻してかくまうくらいのことはするだろう。
 フィオラはそんなふうに思考をめぐらせたけれど、シビーユはふるふると首を横に振った。

「最初はね、弟のエルヴィーノ様の元を訪ねたそうよ」

 やはりそうだったのかとフィオラはうなずいた。箱入り娘のカリナが頼るのは、結局のところ家族だろうから。
 サイラスとの結婚がどうしても嫌だったカリナはひとりで隣国まで必死に逃げた。それだけでもすごいことだ。
 
「でもエルヴィーノ様のところにいたらすぐに見つかってしまうでしょう?」
「そうですね。旦那様は人捜しのプロに依頼されていましたし……」
「だから隣国の知り合いにかくまってほしいと頼んだそうなの。フォルクマーという農夫の男性らしいわ」

 半年ものあいだ、カリナは農家の家に隠れ住んでいたとのことだ。
 マルセルが雇った裏の人間たちがなかなか捜せなかったのも無理はない。

「その、フォルクマーさんとね……極秘で結婚されていたのよ」
「お嬢様がですか?!」
「醜くて冷徹な第二皇子と結婚して、囚人のように死ぬまでローズ宮に閉じ込められるよりはマシだと考えたんじゃないかしら」

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