【受賞作】命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
 どちらの味方なのかと問われても、使用人のフィオラはどちらの味方もできない立場だ。
 ただ、娘がこれほど嫌がる結婚を強いなければならない状況に、マルセルも父親としてやりきれない思いでいるのだろうと想像はつく。

 これが貴族の家同士の縁談ならば、なんだかんだと理由を付けて断ることもできるだろう。
 だが、皇帝からじきじきに話をされたのなら王命が下ったも同然で、もし断ったりすればブロムベルク家自体がどうなるかわからない。
 白羽の矢を立てられたカリナは運が悪い。王家としては由緒ある貴族の娘であれば誰でもよかったはずだから。

「第二皇子は顔に傷があって鬼みたいに醜いらしいわ。野蛮でなにをするかわからないって。本当かしら?」
「どうでしょうね。私とは住む世界が違う方なのでまったく想像がつきません」
「私も会ったことはないの。皇帝陛下と皇太子様は遠くから一度だけお見かけしたけど、おふたりは高貴だったわ」

 サイラスの異母兄にあたるミシュロ・コーネルは皇帝の嫡男で、現在この国の皇太子を務めている。
 カリナは嫁ぐならサイラスよりミシュロのほうがよかったと言わんばかりの口ぶりだが、ミシュロは三年前に妃を娶っているので彼の正妃になるのは無理だ。

「それに第二皇子はクリスタル宮じゃなくてローズ宮にひとりで住んでいるそうよ」
「え、おひとりだけで?」

 歴代の皇帝や皇后が住んでいるのはクリスタル宮で、ローズ宮という宮殿も存在するにはするが建物の大きさがかなり違う。
 一般で言うところの“別荘”のようなもので、長年使用されていないはずの小さな宮殿なのだが、サイラスは家族と離れてそこに住んでいるらしい。

「忌み嫌われてるのね。そりゃ今まで結婚相手が見つからないはずだわ」

 気を許して本音をとうとうと話すカリナに圧倒されたフィオラは、苦笑いを浮かべるしかない。
 皇族の悪口とも取れる発言なので、万が一家の外に漏れたら大変だ。

「そんなおぞましい人と結婚なんて本当に嫌。死んだほうがマシ!」
「お嬢様、落ち着いてください」

 発言がどんどん過激になる彼女を止めようとフィオラは必死になった。

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