「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~
「西の、エスポワールという地域のことはご存じかしら?」
 リオネルを呼びつけた王妃アルレットは、かつてないほどに機嫌がよかった。
 リオネル相手にもにこにこと微笑んでいる。
(……不気味だ)
 リオネルは目の前に置かれたティーセットを見下ろして思った。
 なにが混入しているかわかったものではないので、もちろん手はつけていない。
 しかし、リオネルに対して、アルレットが茶と茶菓子を運ばせること自体が異様なのだ。
 爪と唇に真っ赤な色を塗っているアルレットは、優雅にティーカップに口をつけた。
 カップにべったりと移った口紅が、まるで毒の花のように見える。香水の匂いがぷんぷんする王妃の部屋に、早くも頭痛を覚えそうだった。だが、嫌な顔を見せてはいけない。
 表情筋が死んだとまで言われている「笑わない王子」リオネルは、無表情で答えた。
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