「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~
リオネルはブランシュより三つ年上の二十一歳。
第一王子ではあるが他界した母は身分の低い側室で、正妃が第二王子を産むと同時に王位継承権を奪われたと聞く。
世事に疎いブランシュの耳にも、リオネルの「笑わない王子」という異名は届いていたが――目の前の彼は、「笑わない王子」というより「顔色が悪い王子」だ。
目の下にはくっきりと濃い隈が浮かび上がっていて、顔色も蝋燭のオレンジ色の炎に照らされていて もなお青白い。
(この人、もしかして寝てないんじゃないかしら?)
夫から浴びせられた容赦のない言葉よりも、ブランシュは彼の顔色の方が気になった。
女好きで何事においても派手な第二王子リュカの噂を知っているからこそ、目の前のリオネルの様子が異様に映る。
王子というよりは、まるでろくに休みもなく仕事に忙殺されている下っ端官吏のようだ。
ここエスポワール――「希望」という名の絶望の地、西の辺境に嫁ぐことが決まってから、ブランシュはある程度の覚悟はしていた。
きっと幸せな結婚生活ではないだろう。
そう思っていたが、もしかしなくても、思っている以上にこの地は深刻な状況に置かれているのではないかと、夫の顔を見つめながら考える。
そんなことを考えていたからだろう、結婚早々離縁に向かってもおかしくないような夫の宣言に、すっかり返答を忘れていた。