「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~
「聞いているのか?」
 イライラしているのはきっと寝不足だからよねと、妙な納得をしながら、ブランシュが「あ、はい」と相槌を打てば、リオネルが怪訝そうにきつく眉根を寄せる。
「……本当に聞いていたのか?」
 その、明らかに怪しむような言い方から思うに、リオネルには自分がおよそ新婚の夫らしくない宣言をした自覚はあるらしかった。
 ブランシュがもう一度「はい」と頷くと、リオネルはますます眉根を寄せて、そしてくるりと踵(きびす)を返した。
「納得したならそれでいい。この部屋はお前にやる。好きに使え。俺に迷惑をかけなければ、自由にしてくれて構わない」
 いや、ブランシュは確かに頷いたが、別に納得したわけではなかった。
 ただまあ、新婚と言ってもほとんど初対面に近い夫相手に、ほとんど知識のない初夜を決行されるよりはいいかくらいの感覚である。
 もともとこの結婚にはこれっぽっちも期待していない。
 事前に『金がないから結婚式はしない』と宣言されていたので、それにも別に興味はない。
 王子が『金がない』と言う状況は異常だとは思うけれど、今の国の状況を考えれば、ある程度は察しがつく。
 というのも、少し前に国王が病に倒れたのである。
 以来、バゼーヌ国の実権は王妃が握っているも同然で、側室の子であるゆえに王妃に疎まれているらしいリオネルが、どういう状況に置かれているかは想像に難くなかった。
 いきなり辺境の「絶望の地」の領主に任命されたリオネルは、王妃によって体よく厄介払いをされたのだろう。
 絶望の地と呼ばれるここは見るからに貧乏そうなので、金がないのも頷ける。多分、領地を立て直すだけの支度金ももらっていないはずだ。
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