「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~
 ブランシュは、由緒正しいシャプドレーヌ公爵家の娘だ。
 二歳年上のユーグという名の兄はひとりいるが、ろくに会ったことがないのに加えて、兄は三年前から魔術師団の寮で生活しているため、思い出そうとしても顔も朧げだ。
 なんでも兄は最年少で魔術師団の副団長に任命された天才なのだそうだが、関わりがなさすぎて、ブランシュにとってはまるで他人事だった。
 ブランシュには、魔術も外の世界もすべて無関係なものなのだ。
 バゼーヌ国に限らず、貴族は魔術が使える。
 平民の中にも魔術が使える者がたまに現れるが、一定以上の魔術が使えれば準男爵位が与えられて貴族に格上げされるので、「貴族は」とひと括りにしても間違いではない。
 その中でも特にシャプドレーヌ公爵家は大魔術師の家系で、代々強い魔術師を輩出してきた名門だ。魔力こそすべてという家訓のもと、魔力の強い人間との結婚を繰り返してきたからか、バゼーヌ国随一の魔術師の家系と言っても過言ではない。
 しかし、そんな魔力、魔術至上主義の家にあって、なぜかブランシュは魔力を持たずに生まれてきた。
 父は失望し、「白」――つまり、役立たずと言わんばかりのブランシュという名を娘につけた。
 母は絶望し、娘に見向きもしなかった。
 恥と言われ、ブランシュに魔力がないことは決して外には漏らしてはならないと、邸の外に出ることを禁止され、社交デビューもしていない。
 このまま死ぬまで閉じ込められたままなのだろう。
< 6 / 22 >

この作品をシェア

pagetop