「一族の恥」と呼ばれた令嬢。この度めでたく捨てられたので、辺境で自由に暮らします ~実は私が聖女なんですが、セカンドライフを楽しんでいるのでお構いなく~
(……おばあ様は笑っていなさいと言ったけど、わたしは誰に笑いかければいいのかしら)
 笑いかける人もいなくなった。誰にも相手にされない日々で、ブランシュの表情筋はだんだん動かなくなってきたようにも思う。
 ただ本を読んで、食事をして、寝て、起きて、同じことの繰り返し。
 シャルリーヌは魔力ですべてが決まるわけではないと言ったけれど、どうしてわたしは魔力を持って生まれなかったのかしらと、ブランシュがため息をついた時だった。
 にわかに邸の中が騒がしくなって、ブランシュは読んでいた本から顔を上げた。
(なにかしら?)
 もしかしたら、ずっと家に寄りつかなかった兄ユーグが帰ってきたのだろうか。
 ユーグを溺愛している母が大騒ぎをしているのかもしれない。
 そんなことを考えて、再び結露しはじめた窓を手のひらで拭って外を見やれば、玄関前には黒塗りの高そうな馬車が停まっていた。
 ここからでは馬車に入っている紋章は見えないが、あの豪華さなら、公爵家以上の馬車であろう。
(きっとお偉いさんが来たのね。ま、わたしには関係のないことだわ)
 ブランシュはそう思って、暖炉の前に戻ると、本の続きに目を落とした。
 ――まさかその十分後、血相を変えた使用人が呼びに来るとは思わずに。
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