その手で結んで
翔琉、大激怒
翔琉は舞白の携帯を気にする。
電話もメッセージも翔琉の前ですると必ずと言っていいほど邪魔される。誰からなのか、どんな内容かをしつこく聞かれるのだ。だから舞白は翔琉の前では電話に出ないし、メッセージも見ない。翔琉の前では必ずと言っていいほどマナーモードにしている。なのに今日は忘れて、大量のメッセージ音が静寂な部屋に響いた。舞白はとっさにスマホを持って翔琉から離れる。
「ねぇ、どこ行くの?携帯出して見せてよ」
リビングを出ようとした舞白の行手を阻むように翔琉は入り口に立っていた。その口はにっこりと笑っているのに目は笑っていない。
「あー、のいてほしいな」
「ほら、早く。誰からか教えて」
徐々に一歩一歩近づく翔琉、舞白は逃げ道を探しながら翔琉から離れる。
永久ちゃんからだけどそれを言ったらややこしくなるからなぁ…。
「ねぇ、このまま逃げるならもっと酷いことしてしまうかも」
翔琉はそう言ってシャツの襟を引っ張り、トントンと自身の首筋を指で示す。示した場所は舞白の首筋にある噛み跡だと気づき、顔が真っ青になった。
「そ、それは勘弁して欲しいなぁ」
「じゃあ言うこと聞けるよね?」
翔琉に詰め寄られ、壁際まで追い込まれてしまった。渋々翔琉にスマホを渡す。
「えらいね、舞白」
翔琉は舞白のスマホを手に取ると目の前で操作し始めた。
「え」
そして数秒でロックの解除音が鳴る。
まって、何でパスワード知ってるの!?
そのことを追求しようと口を開くと同時に翔琉が嫌そうな声を出す。
「げ、なんで永久から?舞白とどういう繋がり?」
「そ、それは話せば長くなるけど……それよりも詮索しすぎ。スマホのパスワードまで知ってるなんて大問題よ!恋人ができたら絶対嫌がられるからね」
「…恋人?何言ってるの」
「だから、彼女ができたら束縛彼氏は嫌がられるって話をー「舞白が彼女でしょ?」
カノジョ?
首を傾げて翔琉をまじまじと見てから、誰の?と聞いた。
「は?」
翔琉が突然フリーズした。顔の前で手を振っても反応がない。
「か、翔琉…?」
「はぁー?!嘘だろっ」
翔琉の顔が青くなったり赤くなったりしたかと思うと、両手で顔を覆ってからその場でしゃがみ込む。
「確かにおかしいと思ってたけど、あークソ腹立つ。あの舞白だもんな、あぁあーー」
と、1人悶えていた。
やばい、なんか翔琉がおかしい。あの舞白って、サラッとバカにされてるし。
ご乱心だから一旦自分の部屋に戻ろーっと。
そーっと翔琉の横を通り過ぎて部屋を出る。音を立てないように慎重に扉を閉めた。
ふっ、と息をついた時、締めたドアが再び開いた。
「逃げんなよ」
そう言われて振り返るときには腕を掴まれ部屋に引き戻された。
「舞白、話したいことがあるから座って」
と、正座させられる。
座ったことを確認すると翔琉はソファに腰をかけた。
「舞白、お願いを聞くって約束したよね」
「えーっと」
唐突なお願いの話、一瞬何を聞かれたかわからなかったが数秒たって思い出す。
1人で留守番する代わりのご褒美のことか!
「したよね?」
ジト目で詰め寄られて舞白は慌てて頷く。
「ずっと一緒にいるって約束したよね?」
そんなこと言ってたっけ?風邪引いてた時にいってたような……たしか
「(ズッ友みたいなやつだよね)うん」
「俺が言う一緒にいるって、友達や家族と違うから」
「ん??」
翔琉は舞白の両頬に手を添えて、ぐいっと顔を上に向けさせる。
真剣な顔つきにどきりと胸が弾む。そして顔が近付いてきて翔琉の唇に私のそれが重なった。小さくチュっと音が鳴り離れていく。
「恋人としてだから、わかった?」
真っ赤な顔で翔琉は言った。
「え」
今度は舞白の思考がフリーズする。
え、なんで翔琉にキスされたの?
「舞白は鈍感だからこれからはもっと態度で示すね」
舞白が答える前に翔琉の顔が近づいてまた唇が重なる。そして舞白の手の指を絡ませて恋人繋ぎにされる。
「ん、んむっ……はぁ」
だんだん激しさを増す口づけに息苦しくなって翔琉の胸を叩くと、最後にチュッとリップ音を鳴らして唇が離れた。
「っは……」
舞白の目には涙が溜まり、口からはどちらのか分からない唾液が垂れている。それを見て翔琉は満足そうに微笑んだ。
「あー可愛い」
そう言って親指で涙を拭われ、さらに顔が赤くなるのを感じた。
まてまてまて、な、流されたらダメだ!
舞白は気持ちを落ち着けるため深呼吸をする。
考えろ舞白、さっき翔琉に告白されたよな。え、翔琉って私のこと好きなの?いつから?もしかして風邪引いてた時に言ってたのがそうだったのか?
今更ながら色々と思い当たることがあり頭がこんがらがる。
パニックになっている舞白の心情を無視して翔琉はまた顔を近付けてきた。
ヤバイヤバイヤバイっ!
慌てて両手で顔を隠すと、翔琉から不満そうな声が聞こえる。
「舞白」
翔琉は舞白の手首を掴むと手を顔からどかす。このままだとキスされると思い、舞白は顔を背けた。
首筋にぬるりとした感触を感じ短い悲鳴をあげた。そのままガブリと噛みつかれると覚悟したが翔琉の細い指が首筋を撫でただけだった。
「まだ舞白の首に噛み跡が残ってる、嬉しい。でも今は噛まないよ」
そう言って首筋にキスをしようとしてくるので、慌てて大声を出す。
「ストップ!ストーップ!」
「なに?」
ムッとした顔が目に入り怯むが、それでもダメなことはダメなのだ。
「私の気持ちを無視して、そういうことをするのは良くないと思いますっ!」
舞白の言葉に翔琉の目が丸くなる。そしてしばらく考え込むようにうーんと唸っていたがやがて口を開いた。
「……わかった。舞白が逃げなければ返事を待ってからにする」
翔琉の目からは逃がさないからね?という圧を感じる。
「あ、はい」
と舞白は頷くしか出来なかった。