その手で結んで



 気まずい。


 ため息をつきそうになって、咄嗟に飲み込む。
あぶない、あぶない、また翔琉に文句言われるところだった。

 私たちは今、机を挟んで向かい合った状態で課題をしている。会話がないので図書館並みに静かだ。なぜ苦手な彼と向かい合って課題してるかというと、2人仲良しな写真を撮って送るという我が家のミッションがある。
 初めは仕方ないから晩御飯の写真を送っていたが、母から私の課題が心配だといって勉強してる写真を求められるようになってしまった。ほんと迷惑なんですけど!?その見張り役に翔琉を選ぶのもおかしいし。
めんどくさがりの舞白は写真だけ撮って部屋で引きこもろうとするが、見張り役の翔琉に『課題するよ』と引っ張り出されてしまった。それが今ってわけ。

私の安息がぁ。何とかしてこいつから離れたい。自由にのびのびしたいー。

 真っ白な天井を眺める。

 あっ、そういえば明日部活の打ち上げだ!!ご飯は作り置きすれば翔琉だって問題ないだろうし。
気まずい晩御飯の時間が無くなるぞ!!
なんなら朝までオールしよ!

 舞白はキラキラと目を輝かせて、明日に心を躍らせていた。そんな舞白の表情に気づいた翔琉が呆れた顔をする。
 「変な顔、そんなことしてないでそれ早く終わらせたら?」
 「な、変な顔じゃないし」
 舞白はムッと眉を寄せて翔琉を睨んだ。
 「へぇー。なに考えてたの?」
 「ふふん、明日のこと」
「‥…明日何があるの?」
翔琉の声があからさまに低くなる。
「明日は部活の打ち上げ。ま、翔琉は大丈夫でしょ?」
と、舞白はにこやかに言った。
 「…………いや、無理」
 「へ?」
 そ、即答!?
 「なんで!あ、ご飯ね。任せて、私が作っておくわ」
 「違う。なんで、俺を一人にするの」
 翔琉は苛立ったような声で言う。
 「え?1人って最高じゃない?」
 と、舞白は首を傾げた。
 翔琉は眉を顰めて、わざとらしいため息をついた。
 「俺は嫌、だから断って」
 「えぇ、お願い!行かなきゃダメなの」
 と、顔の前で手を合わせる
 「嫌だ。だって男もいるんでしょ?」
 「そりゃ部活だからね。でも男子は参加しないかも?今回は女子会だから。ね?お願い!」
 何が何でもゴリ押すぞ!と意気込む舞白は翔琉の言葉の意味に気づかないまま、翔琉の手を取り、顔を覗き込むようにしてお願いする。
 舞白のお願いに、ビクリと翔琉の肩が動いた後、ぷいっと顔を背けて
 「わ、わかった…。でも今回だけ」
と、弱々しく呟いた。
 「ふふ、ありがとー」
舞白の心の中では喜びのパレードが開かれており、ずっとニコニコしていた。
そんな舞白を見て翔琉はむすっとする。
 「…その代わりご褒美くれるよね?」
 「え」
 な、図々しいな、こいつ。ゲームのソフトをねだられたらどうしよっ
 「…………い、いいよ、一つね」
 と、限定させた。
 「一つか…………まぁ、いいや。忘れないで」
 と、珍しく翔琉はにこやかに笑った。
 サボっていた表情筋が動いているだと!?ご褒美って何なの〜!?
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