僕の秘書に、極上の愛を捧げます
それにしても、こんなことって・・。

「・・もしかして、翔子か?」

「どうして、あなたがここに・・」


私たちの間に流れた微妙な雰囲気を打ち消すように、専務が役員室に入ってきた。

「ただいま、宮田さん。これ、お土産。先方からの頂き物なんだけど、宮田さんが食べてみたいって言ってた焼き菓子じゃないかな?」

「お帰りなさい、専務。これ・・そうです。ありがとうございます」

手渡された紙袋を専務から受け取る。

「あ、こちらは遠藤(えんどう)さん。僕の仕事を少しサポートしてもらおうかと思ってるんだ。前職の時に知り合ったんだけど、帰国したと聞いて話がしたくて。ごめん、今日ここに呼んだことを伝え忘れていたね」

「いえ・・空き時間でしたし、大丈夫です。いますぐお茶をご用意しますね。遠藤さん、アイスコーヒーはいかがですか?」

「はい、いただきます。早速ですが、専務・・」

話を始めたふたりを役員室に残し、私は給湯室に向かう。
さっきの専務の口ぶりだと、遠藤と会うのは今日限り・・ではなさそうだ。

遠藤 遥希(はるき)、私より2つ上の32歳。

いざ再会してみると、恋愛フィルターが外れたからなのか、専務を日常的に見ているからなのか、以前のような憧れめいたカッコ良さは感じない。

ただ、過去に恋人同士だったと専務に知られるのは仕方ないにしても、その時と同じ距離感で私に接してほしくないと思った。

もう、あの頃の私じゃない。
遠藤との恋愛を頼りに生きるような、流されるだけの私じゃない・・はずだから。



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