僕の秘書に、極上の愛を捧げます
そのまま早歩きで役員フロアの化粧室に飛び込み、鏡を覗き込む。

やっぱり顔が赤い。
もう身体中の毛穴が開いて、少し汗ばんでいる。
心臓の鼓動も、ものすごく早い。

「どうして・・あんな・・突然・・」

私は思わず、化粧室の床にペタンと座り込んだ。


成宮 恭介 (なりみや きょうすけ)、35歳。
社長直々にスカウトしたという彼は、半年前にこの会社の一員となった。

私はそれまで社長の第二秘書だったけれど、『宮田に成宮の専属秘書を任せたい』と言われ専務付きになったのだ。

163センチの私が7センチヒールのパンプスを履いても、まだ見上げるほど背が高い。
光沢のあるチャコールグレーのスーツがお気に入りで、ここぞという時のピンストライプのスリーピースはフルオーダーだと聞いている。

ヘアスタイルはさっぱりと短めで、カラーリングもしていない。
スッと真っ直ぐな眉や、すっきりと通った鼻筋、薄めの唇さえ・・端正でスッキリとした印象を与える。

そう、とにかく爽やかな仕事のデキる男。

性別問わず会食の誘いも多く、手土産のスイーツリストと評判のいいレストランリストは間もなく底をつきそうで、目下の私のミッションは新しいお店の開拓だ。


「宮田さん、申し訳ない! メインバンクの支店長が1時間後に挨拶に来たいと、いま連絡があったんだ。15時過ぎだし、何か好みのスイーツ用意できるか?」

「支店長・・アップルパイがお好きなんですよね。ふたつ先の駅ビルに、有名店がテナントをオープンしたので買いに行ってきます」

「助かる。宮田さんに預けてある僕のタクシーチケット使っていいから」

私はデスクからバッグを取り出し、すぐにオフィスを出る。
専務のリクエストに瞬時に応えることができた自分に、思わず心の中でガッツポーズをした。



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