僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「今日、仕事が終わったら、少し・・時間もらえないかな。その・・聞きたいことがあって」

「でも専務、今夜は確かお約束があったかと」

「さっき先方に電話して、来週に延期してもらったから問題ないよ」

私は、専務の腕の中でそれを聞いている。
この間は自分から抜け出してしまったけれど、今日はそのままでいた。

きゅっ、と腕に力がこめられる。
さらに距離が近くなったからか、左肩の下あたりに専務の鼓動を感じた。

とても早いようだけれど、気のせい・・?

「ずっとこうしていたいけど、そろそろ次の会議の時間だな。戻ってきたらそのまま出かけられるように、帰り支度もしておいて」

「・・はい」

スッと離れていく重さに、やっぱり寂しいと感じてしまう。
もう、気持ちをごまかせないな・・。

それが顔に出ていたのか、専務が会議用のタブレットを持って部屋を出て行こうとしたのに、くるりと私の方に振り返る。

「そんな顔してたら、もう一度抱き締めるだけじゃ済まなくなるぞ?」

私の顔を覗き込み、いたずらっぽく笑った。

「・・っ」

初めて見たその笑顔があまりにも素敵で、見入ってしまった。

そしてその笑顔が、どんどん私の顔に近づいてくることに気づき、その先を予測する。
おそらく、ふたり同時に目を閉じたんじゃないかと思った。

触れるだけのような短いものでもなく、かといって長いわけでもない、数秒のキス。

「だから言っただろう? 抱き締めるだけじゃ済まない・・って」

真っ赤な顔で俯く私を役員室に残し、専務は会議室に向かった。



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