僕の秘書に、極上の愛を捧げます

Side 恭介

自分の唇なのに、何か違う感覚が少し残っていて指で触れてみる。

「あ・・そういうことか。危ない危ない」

エレベーターの中に設置された鏡を見ると、そこに映っている唇にほんの少しだけ彼女のグロスがついていた。
社長に見つかったら冷やかされるだけだな。

ハンカチを取り出し、軽くぬぐうとすぐに取れた。
取れた後の唇に、改めて触れる。

あんなキスは初めてだった。
まるで引き寄せられるように、何の制御もせずに本能に従ったキス。

俺は帰国子女だし、海外生活も長かったから『キス』は日常だった。
数えきれないほどしてきたはずなのに、初めてだと思うくらい衝動的で本能的なもの。

自分が思っている以上に本気なのかもな・・。
認めないわけにもいかず、鏡の中の自分に向かって苦笑いした。


そして、自分の気持ちを認める以上、彼女に確かめなければならないことがある。

・・・・遠藤のことだ。

彼女が役員室で倒れた時、俺は咄嗟に抱き上げて救護室まで連れて行った。

ただその後に来客があったから、遠藤に彼女の付き添いを頼んだ。
もちろん看護師もいたけれど、彼女がひとりになって困らないように、誰かがいた方がいいと思ったから。

本当は、俺が彼女のそばにいたかった。
目が覚めた時、一番最初に『もう大丈夫だよ』と言ってやりたくて。

急激に距離を縮めているように見えるふたりを一緒にしたくはなかったものの、目が覚めた時に彼女が不安にならないよう、遠藤に託したのだ。

来客対応が終わって救護室に戻り、ドアを開けようとして俺はそこから動けなくなった。
彼女が、遠藤を『遥希』と呼んだから。

それがなぜなのかを遠藤に確かめることもできたけれど、もしかしたら彼女が意図しないことを言うかもしれない。

ようやく一歩進展したのに、また距離が開くようなことは避けたかった。

だから、彼女の口から聞きたいと思ったのだ。
ふたりの関係を。



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