僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「専務、おはようございます」

翌朝、役員室のドアを開けると、いつもの朝と変わらないシチュエーションで彼女が俺を迎えた。

「おはよう・・。いつもより早く出勤したつもりだけど、もう来てたんだね」

「はい。昨日は早めにオフィスを出たので、調整事項が溜まっていないかと気になったもので」

「そう・・早めに・・・・。あの・・さ・・・・。・・いや、コーヒー頼めるかな。ブラックで」

「・・すぐに、お持ちしますね」

彼女が部屋を出ていく姿を見ながら、小さくため息をつく。
いざ目の前にすると、はっきり聞けないもんだな。

昨日の夜、佐伯に会ったのは・・なぜ?

何を話したんだ。
俺に関係のある話か・・全く関係のない話ということはないだろうけど・・。

ガチャッ。
役員室を出て、彼女のいる給湯室に向かう。

翔子・・俺を・・。

コーヒーのドリップをじっと見つめている彼女を見つけ、後ろから緩く抱き締めた。

「え・・? 専務、誰かがいたら・・」

「まだ早いから誰もいない。それとも・・俺にこんなことをされるのは、嫌?」

「・・・・」

彼女が困った表情を浮かべているのは、後ろからでも雰囲気で分かっていた。
でもそばにいて抱き締めていないと、どこかに行ってしまいそうな気がして・・。

「専務、離してください。ここは、共有スペースですから」

「・・・・すまない・・」

俺は、拒絶・・されたのか。
はっきり言われたことで、そんなはずもないのにそう思った。

彼女は何も間違ったことは言っていない。
俺の立場を気遣っての言葉でもあったはずなのに・・。

頭では理解していても、どこか受け止めきれない自分がいた。



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