僕の秘書に、極上の愛を捧げます
ニューヨークに滞在しているであろう彼からは、会社のメールアドレス宛てに何度か業務連絡はあるものの、プライベートな連絡は全く届かなかった。

どうしてなんだろう・・。
何か連絡できない事情でもあるの?

そもそも連絡すると言ったのは彼で、その彼から連絡が来ない以上は私からしてもいいものかと気が引けたし、それと・・なぜ私からしなければならないの?という変な意地もあった。

彼の気持ちが、全く分からない。

退勤時間を迎え、オフィスを出たところで名前を呼ばれた気がした。

「良かったー。間に合ったか」

「え・・遠藤さん・・どうして?」

「今日は朝早くから仕事してたから、早く終わったんだよ。晩メシに誘うなら、あまり日を置かずにと思ってたしさ。翔子、ハラ減ったか? もし良ければ美味い焼き鳥屋があるんだけど、どうかな・・」

それを聞いて、私は思わずクスッと笑う。
だいぶ昔と印象が違うからだ。

「なぜ・・笑うんだ?」

「だって・・・・私に『ハラ減ったか?』とか『どうかな』なんてお伺いを立てるようなこと一度も無かったと思って。扱いが変わったなーって思ったのよ」

「それは・・・・翔子が変わったからだろ・・・・。店、タクシーで行こう。通りで拾うから待ってて」

遠藤は通りを流すタクシーをつかまえ、私を手招きしてふたり一緒に乗り込む。

「10分くらいだからさ・・」

「うん・・」

「美味いもの食べて、昔話でもしよう。このタイミングで再会したのも、何か意味があってのことだと思うから」

そう言って、遠藤は私から視線を外した。
その横顔を見ながら、確かになぜこのタイミングで再会したのだろうと考える。

それと同時に、どうして彼はこのタイミングでいなくなってしまったのだろうと考えてもいた。



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