僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「お疲れさま」

そう言って、遠藤は持ち上げたビールのジョッキを私のグラスに軽くあてた後、グッと飲んだ。

「ふぅー。一緒にメシ食うの、いつ以来だ? また会えるとは思わなかったな」

「そうね。私は3年前と同じ会社にいるとはいえ、担当が変わっていれば全く会わない可能性だってあっただろうし」

「だからさ、俺は運命とか感じるわけだよ。あの時諦めた翔子が、すごく綺麗になって俺の前に現れるなんてさ」

そうだ・・。
この間も聞きそびれた『あの時諦めた』という遠藤の言葉。

「遥希、その・・あの時諦めた・・ってどういうこと?」

「あー・・・・うん・・。
俺、あの頃どうしたらいいか分からなくなってたんだ。なんていうか、俺といても翔子が幸せそうじゃないのは、俺の実力不足もあるなって思ったしさ。だから、いろんな意味で成長したくて留学を選んだ。
物理的に距離を置けば、俺も冷静に考える時間ができるし、翔子も、そういう理由ならと吹っ切れるだろう・・って」

「そうだったんだ・・」

単純に、つまらない私に呆れて別の居場所を選んだのだと考えていて。
まさか・・自分の力不足だと考えてくれたなんて、思ってもみなかった。

「ごめんなさい。私も・・」

「ん?」

「周りの評価を気にし過ぎて、努力する前に萎縮してしまった。それを遥希が、自分のせいでもあるって考えてたなんて・・・・」

「それくらい、翔子が好きだったからね。伝えられてなかったけど」

ハハッと笑う遠藤に、私は苦笑いを返す。

「今なら・・今の俺なら・・翔子を幸せにできるんじゃないかって。あの時より自信も持てたし、視野も広くなった。
翔子だって、もうあの頃の翔子じゃない。自立した大人の女性になってる。だから、もう一度・・って、思わずにいられなかったんだよ」

過去に、ある程度の期間を一緒に過ごした人だから、お互いを知っている安心感のようなものは確かにある。

なんだか、気持ちが揺れた。



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