僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「専務・・」

モニタに向かって、彼を呼ぶ。
あえて、名前は呼ばなかった。呼んではいけない気がしたからだ。

『すまない・・本当に・・』

「いえ・・。それより、どうしてそんなに・・・・」

スタイリッシュなスーツどころか、ネクタイを外した後のシャツを1枚着ているだけ。
それが、疲れを通り越して、やつれたようにも見える彼の状態を表していた。

外から帰ってきて、着替えもせずにずっと仕事をしていたのだろう。
いったい、何が・・。

『・・・・宮田さん、ニューヨークに出張できないだろうか? タスクが処理しきれなくて、こちらでサポートしてもらえると助かるんだけど・・』

「そう・・ですね。行くとしても、出張申請を出して飛行機とホテルを手配しつつ、申請が受理されてからの出発なので・・・・1週間ほどお時間をいただくことになると思いますが」

『1週間・・』

そう呟いた彼は、目を閉じて考えを巡らせていた。
『ちょっと待っててくれるか?』と言ってモニタの前からいなくなり、どこかに電話をしているような英語のフレーズが耳に入る。

5分ほどで戻ってくると、彼は私に、これから話すことをよく聞くようにと言った。

『明日の深夜便を予約した。ビジネスクラスを取ったから、しっかり寝てくるように・・こちらに着いたらすぐに業務してほしいからだ。時差があるから到着は深夜になるけど、迎えをやるから心配せずに。ホテルもこれから手配させる』

「ええっ、明日ですか? それにビジネスクラスなんて・・・・いくらなんでも・・」

『これは業務命令。遊びに来るわけじゃないよ。急ぎの事案だから、申請も事後でいい。社長には僕から話を通しておくし、それくらいの権限はあるからね』

「・・そうでしたね、専務」

彼はほんの少しだけ表情を緩め、更に付け加えた。

『そうだ。宮田さんに預けたいものがあったんだけど、急いで出てきたから・・・・僕のキャビネットの一番上の引き出しに箱が入ってる。箱は不要だから、中身だけ持ってきてほしい』

「承知しました」

『じゃあ、予約の件は後で詳細を送る。・・・・待っているよ』

プツリ、と映像が途切れた。



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