僕の秘書に、極上の愛を捧げます
私は役員室に戻り、改めてキャビネットの鍵を開ける。
一番上の引き出しには、いくつかファイルがあるものの箱はひとつしかない。

そう、彼が出発した日に見た、薄いピンク色の箱だ。

そっと取り出して、箱にかかったリボンをほどく。
箱を開けると、そこにあったのは、シンプルなひと粒ダイヤのネックレスだった。

「・・綺麗」

天井のライトを反射して、キラキラと輝く。

それにしても。
『箱は不要だから、中身だけ持ってきてほしい』というのは、言葉の通りに受け取ると、このネックレスをニューヨークに持ってきてほしい、だ。

私へのプレゼントだと思いたいけれど、本当にそうだとしたら彼に着けてほしくて、私は付属のジュエリーポーチに入れてニューヨークに持参することにした。

明日の夜、ニューヨークに出発。
自宅を出るまで在宅で業務ができるよう、今日のうちにデバイスの設定を変更したり必要な資料を電子化したりして準備を進める。


『いろいろと事情があって・・・・』


彼の、言う通りなのだろう。
今はまだ何も分からないけれど、ニューヨークに行けば何か分かるかもしれない。

そう・・。
彼の近くに行けるからといって、遊びに行くのではないのだ。
舞い上がらないようにしなければ。

「でも・・嬉しい、やっぱり」

小さく呟いてみる。
彼への不信感が消えたわけじゃないし、遠藤に気持ちが揺れたりもした。

それでも、彼の顔を見て声を聞けばそばにいたくなるし、手を伸ばして触れたい気持ちになるのも嘘じゃない。

『これは業務命令。遊びに来るわけじゃないよ』

ニューヨークに行ってからは、まるで何も無かったように上司に戻ってしまった彼が、私を抱き締めてくれる日は来るのだろうか。



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