僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「ランチ行こうか」

ジャケットを羽織りながら、専務が私の前を通り過ぎる。

「はい。あっ、きゃっ!」

後ろをついていこうとした私は、床張りのカーペットの境目にヒールを引っ掛けた。

転ぶ!!!

「おっ・・と。大丈夫?」

偶然にも、振り返った専務に向かって身体がよろけ、左腕で抱えるように支えてもらう。

あ・・専務の香り・・。

いやいやいや、それどころじゃない。

「も、申し訳ありません!」

焦った私は急いで離れようとしたのに、専務は放してくれないのだ。

「あ、あの、専務・・?」

「まだ靴が引っ掛かっているようだから、慌てないで」

専務は私の身体を真っ直ぐにしてデスクに寄り掛からせてから、かがんで私のハイヒールをカーペットから外してくれた。

「・・ありがとうございます」

「転ばなくて良かったよ。ケガでもしたら大変だから。ところで・・さ」

「はい」

「宮田さんて、香水のつけ方が上手だね。今みたいに、かなり近づいた時しか香ってこないから。ちょっとドキッとする」

私の顔は、きっと赤い。
思わず俯いた。

そんなふうに言われたら、意識してしまって迂闊に近づけなくなる。

「あ、ごめん。褒めたつもりだったんだけど、余計なこと言ったかな」

「いえ・・そんなことは・・」

「じゃあランチ行こうか。先にエントランスに降りているよ」

ドアの向こうに消えた専務を、私はすぐに追えずにいた。
それくらい私の鼓動が早すぎて、少し落ち着かせてから行きたかったから。

そして、敢えて口にしなかったけれど、私も専務に支えてもらった時に感じたミント系の香りにクラッときていた。



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