僕の秘書に、極上の愛を捧げます
そんな私を見て何かを察したらしく、彼はククッと笑う。

「何しに来たんだって・・って言われた?」

「まぁ・・やんわりと聞かれましたけど、事実をお伝えしたまでなので問題無かったかなと」

「事実ねぇ」

彼はそう言うと、突然私の顎を軽く持ち上げて唇を重ねた。

「・・っ・・」

「こういうこともするって?」

「それは・・言ってません」

「企業秘密だぞ。それはそうと、さっき頼んだ契約書の翻訳を急ぎで頼めるか? 終わりの時間にもよるけど、可能なら今夜送りたいと思って」

私はデスクに置いた書面をパラパラとめくり、頷いた。

「そうですね・・3時間もあればなんとか」

「そうか、助かる。じゃあ出かけてくるから」

バタン、とドアが閉まったのを確認し、気持ちを切り替えるためにお茶を淹れる。

先に食べるつもりもなかったけれど、テーブルに置かれたスイーツの箱を開けると、確かに彼が好みそうなタルトがいくつも入っていた。

彼は・・理紗さんと結婚することは絶対に無いと言ったけれど、理紗さんはどうなんだろう。

幼馴染で気心も知れていて、当然仕事への理解もお互いにある。
スタイリッシュな彼とエレガントな理紗さん。

どう見てもお似合いだし、自然だ。

結婚は恋愛の延長上にあるとも思うけれど、それとは別に、築き上げてきたものを未来に繋ぐための手段でもある。

彼は最終的に、どちらを選ぶんだろう。
私は、彼の『家族』になれるのかな・・。

そこまで考えて、ハッとした。
私・・彼との結婚を考えてるの?

理紗さんが現れてから噂でしかなかった『婚約者』の存在が現実味を増し、いつの間にか私の思考も結婚に向いたのかもしれない。

「恋人でいることだって危ういのに・・」

誰もいない部屋で、私は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。



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