僕の秘書に、極上の愛を捧げます
ホテル近くのバーに入り、軽食をつまみつつアルコール度数低めのお酒をふたりで飲んだ。

オーダーしたメニューのお皿がひと通り空いたところで、彼がおもむろに話を切り出す。

「さっき話したいことがあるって言ったのは───」

そこまで言って彼は言葉を止め、ポケットからスマートフォンを出した。
口元に右手の人差し指を立て『しーっ』というそぶりをする。

「もしもし、何かあった? うん・・・・うん・・・・そう、良かったね」

初めて見るようなやわらかい表情と、話す口調。
いったい誰と話をしているのだろう。

「え? そんなことってあるんだな・・・・。あ、いや。分かった、いいよ。今夜は時間ある? そう、じゃあ後で行くよ」

彼は電話を切ると、すぐにバーテンダーを呼んで支払いを頼んだ。

「・・これから、どちらかにお出かけですよね。私は、先にホテルに戻っています」

「ん?」

「『後で行くよ』って・・。誰かに会いに行くのなら、私は・・」

おそらく、いや、間違いなく女性だ。
でも、女性に会いに行くのかとは聞けなかった。

ふわっ。
頬に彼の大きな手が触れる。

「どうした、そんな寂しそうな顔して。俺が翔子を残して、他の女性に会いに行くとでも思った?」

「・・・・」

図星だ。
何も言えずに彼を見つめる。

「まぁ、女性に会いに行くのは間違いじゃないけど・・。翔子も一緒に行くんだ」

「えっ、私もですか? なぜ・・?」

「行けば分かるさ。さぁ、出よう」

彼は私の肩を抱き、バーの外へとエスコートした。

どこに向かっているんだろう・・。

手を絡めて繋ぎながら、彼と夜道を歩く。
考えてみたら、手を繋いで外を歩くなんて初めてかもしれない。

「恭介?」

その声に、彼の手が離れる。
理紗さんの前では、私たちはいつまでも『上司と部下』のままだった。



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