僕の秘書に、極上の愛を捧げます
専務と訪れたランチのお店は、先月オープンしたばかりで、月替わりの多彩なアラカルトメニューとデザートの美味しさでとても人気があった。

メインの客層は女性かと思いきや、お肉のメニューも充実していて男性同士で来ても全く違和感がない。

広めの店内はスペースごとに少しインテリアが変わっていて、それぞれの客層が雰囲気に合ったスペースに案内されている。

「どう? 宮田さんの感想は?」

私たちは、お店の奥の方にある一段高いテーブルから店内を見渡していた。

「駅から少し離れているのは、これだけのスペースを確保するためなんですね。でもここならメニューも豊富だし、雰囲気もとっても素敵なのでお料理をいただくのが楽しみです。ディナータイムも来てみたいと思います」

「それは・・ひとりで?」

「えっ」

「誰かと一緒じゃないと、よからぬ男に連れていかれそうだなって。まぁ、もしかしたらすごくお酒が強くて動じないのかもしれないし、例えば空手の有段者で、変なヤツが来ても投げ飛ばせるのかもしれないけどね」

クスクスと笑う専務に、どう切り返すか頭を働かせた。
揶揄われているのだし、ムキになって反論するのは子どもっぽい。

「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。エスコートしてくれる素敵な男性と一緒に来ますから」

そう言うと、専務は私から少しだけ視線を外した。
しまった・・受け答えがイマイチだったか。

微妙な空気になりかけたところで、タイミング良く前菜とスープ、パンが運ばれてきた。
盛り付けや温かさが、とても食欲をそそる。

「食べようか。半分仕事だと思って、良く味わって」

「と、仰いますと・・」

「うん、僕の今後の仕事に関係があるんだ。とはいえ、率直な感想が聞きたいから『半分仕事』ね」

食べ始めた専務の横顔は、いつもと変わらなかった。
少なくとも、さっきの私の答えで機嫌を損ねたわけではなさそうだ。

良かった・・。
ホッとしながら、私も目の前の料理を食べ進めた。



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