僕の秘書に、極上の愛を捧げます
ほんのりと香るバニラの香り。
抱き締めるくらいに近づかないと、この香りは堪能できない。

いまは多分、俺だけに与えられた特権のはずだ。

「もっと大切にする」

「えっ」

「もっと、大切にさせてほしい。ダメかな・・」

上手く言えていない自覚はある。
だけど、ストレートに伝える以外に思いつかなかった。

自分本位じゃなく、彼女に、そうすることを受け入れてほしくて。

「私・・」

「うん・・」

相槌を打ちつつ、彼女の言葉を待つ。

「これ以上大切にされたら、その先を望んでしまいそうで・・」

最後は消えそうな声で彼女が言った。
それを、望んではいけないのだと思っているんだろうか。

「さっき、さ・・俺が小夜子さんに『彼女とこれからの人生を歩きたいと考えてるんだ』って言ったの覚えてる?」

「・・はい」

俺は彼女を抱き締めている腕をほどき、彼女を自分に向けてから言った。

「翔子が俺との将来を考えられるように、努力する。・・愛してるんだ」

彼女の瞳が、あっという間に潤んで涙を押し出す。
困り顔で微笑む彼女に、ちゅっちゅっと軽くキスした。

ぽふっ、と彼女が俺にもたれかかってくる。

「どうした?」

「恭介さんて、こんなに甘い男性だったんですね・・」

「そうみたいだ。俺だって、自分のことをクールなヤツだと思ってたのに・・・・翔子は特別なんだよ。俺、女性に『愛してる』って言ったことないんだ」

そう。
無いのだ。
それなのに、彼女にはもう何度その言葉を囁いただろう。

「俺の横で眠っている時に言ったこともあるくらいだよ」

「えっ、本当? それも聞きたかったな・・」

「何なら、いま言おうか?」

俺の胸のあたりにもたれかかっていた彼女が、顔を上げる。
顎先を緩くつかんで『愛してるよ』と囁き、そのまま口づけた。

危うく深いキスになりそうなタイミングで、部屋の呼び鈴が鳴る。

「あっ、ルームサービス・・」

頬を赤く染めてドアに走る彼女も、ただ愛しいと思った。



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