【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「ですので、それを防ぐためにももっと距離を縮めていただこうかと思いまして。あと、社交の場に伴うのもいずれは必要かと思いますよ。……シェリル様の嫁入り先、探すのを止めてしまわれたのでしょう?」
「……それ、は」
「でしたら、もっとグイグイ行きませんと。周囲に婚約者だと紹介しましょう!」
……正直、その話は大層魅力的だった。しかし、それはシェリル嬢の気持ちを無視しているということになる。出来れば、俺はシェリル嬢と愛して愛される関係になりたい。そんな外堀を埋めるなんて方法、出来るわけがない。
「その方法、は」
「シェリル様のお心を無視していると、おっしゃりたいのですか?」
俺の躊躇いの声を聞いて、サイラスがそう言う。そのため、俺はゆっくりと頷いた。そうすれば、サイラスは「……きっと、シェリル様もまんざらではないと思いますよ」と言ってくる。……それは、シェリル嬢も俺のことをある程度は好いてくれているということなのだろうか? そんなこと、都合のいい夢だろう。
「とにかく。今度、社交の場にお誘いしてみてくださいよ。それか、プロポーズしてみては?」
「サイラス、お前はバカか! プロポーズなんてしたら、フラれるのは目に見えているだろう!?」
「……本当に、シェリル様のことになるとポンコツになりますね、この主。……まぁ、いいです。シェリル様のことを大切に思われるのならば、元婚約者を潰す勢いで行きましょう。元婚約者の元に戻っても、シェリル様は間違いなく幸せにはなれません」
サイラスはそう言い残すと、「では、私は一旦本業の方に戻ってきます」と言って俺の側を通り抜ける。……あぁ、執事の仕事か。
(……俺は、いったいどうしたい?)
一人になった俺は、そんなことを思ってしまう。本当は、シェリル嬢の力になりたいし、側にもいてほしい。……だが、こんな俺では――。
(いや、もう自分を卑下するのは止めよう。シェリル嬢の隣に、堂々と並べるようになればいい)
あの美しく、何処か冷めきった少女の隣に、自分が並べるようになるのかは分からない。それでも、出来る限りそうなれるように努力すればいい。俺はそう思い直し、仕事に戻るのだった。