【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「い、いえ、何でも、ありません……」

 はっきりと言えば、滅茶苦茶理由がある。とてもワケがある。しかし、それをギルバート様にお伝えするのは気が引けたので、私はソファーから立ち上がり、「まだ休憩時間があるので、屋敷内をお散歩してきますね」とだけ告げて一歩を踏み出そうとした。

「――シェリル嬢!」

 でも、ギルバート様はそんな私の手首をいきなり掴まれる。それに驚いて私が勢いよくギルバート様に視線を向ければ、ギルバート様は「わ、悪い……」とだけおっしゃって黙ってしまわれた。……悪くない。今のは、突拍子もない行動をした私が悪い。

「そ、その……」

 謝りたかった。だけど、口からは謝罪の言葉が出てきてくれない。唇がわなわなと震え、どうしようもなき持ちになる。……素直に、なれたらなぁ。あと、自分に自信を持つことが出来たならば。そうすればきっと――ギルバート様に、この恋未満の気持ちを伝えることが出来るのに。

 しかも、それからしばし無言の空間になってしまう。ふと、サイラスさんを見つめればサイラスさんは、なんというか微妙な表情をしながら、ギルバート様のことを肘でつついていた。……何が、したいのだろうか?

「旦那様。ほら、もうここはお誘いしてください!」
「無理だろ! ……俺が、シェリル嬢と一緒に社交の場に参加するなど……」
「……旦那様。この間の決意はどうされたのですか? ほら、さっさと行きなさい!」

 何かをサイラスさんがギルバート様に耳打ちされると、サイラスさんは――あろうことか、ギルバート様の身体を私の方に押してこられた。しかも、サイラスさんは力いっぱいギルバート様の身体を押されたらしく、ギルバート様は踏ん張ることが出来なくて――。

「え? ひゃぁっ!」

 何故か、私はギルバート様に潰される形で床に倒れこんでしまった。……お、重い。重い重い! そう思って、私はただ必死にその場でもがいた。……その行動は、無駄だったのだけれど。
< 105 / 157 >

この作品をシェア

pagetop