【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「……だけど」
「――シェリル嬢、入るぞ」

 私がクレアに言葉を返そうとした時だった。お部屋の扉が数回ノックされて、ゆっくりと扉が開く。そして、他でもないギルバート様がお部屋に入ってこられた。その衣装は普段のラフなものとは違い、正装のきっちりとされたもの。……その、こういうのも素敵かなぁって。

「……あの、ギルバート様」

 私の姿を見て、扉のすぐそばで硬直されてしまうギルバート様。そんなギルバート様に私は恐る恐る声をかけた。……何か、まずいことでもしただろうか? そう思って私がびくびくとしていると、ギルバート様はいきなりハッとされ「……似合っている」とだけ端的におっしゃった。……それだけしか、おっしゃってくれないの? 一瞬そう思ったけれど、ギルバート様は照れたような表情をされていたため、その言葉を私はグッと飲み込んだ。だって、口元を押さえながら視線を逸らされるギルバート様は……その、とても可愛らしかったから。

「ギルバート様も、とてもお似合いです。素敵です」

 だから、私の方もギルバート様から視線を逸らしながらそう言ってしまう。……褒め言葉は、相手の目を見ながら言えるものじゃない。特に、意識をしている相手だと。そんなことを考えながら、私たちはただ無言で向き合っていた。

 そんな私たちをにやにやと見つめるクレア。こっそりとため息をつくマリン。そんな微妙に甘ったるい空気を壊したのは、お部屋にやってきたサイラスさんで。

「ほら、行きますよ! もうお時間はないのですから!」
「お、おい、待て!」

 サイラスさんはギルバート様の腕を掴み、そのまま玄関の方へと連れ出していかれる。なので、私もクレアとマリンい目配せをして、そのまま玄関の方に歩いて行った。途中、ギルバート様の「何故俺だけ……!」と恨みがましい声が聞こえたけれど、それは聞こえないふりをしておいた。サイラスさんって、結構ギルバート様の扱いが雑なのよね。そんなことも、今更ながらに実感した。
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