【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】

「……シェリル嬢?」

 だが、何を言ってもシェリル嬢から返事がない。まさかと思い、俺が彼女の顔を覗き込めば……彼女は、微かに泣いていた。……正直に言えば、泣いた女性の扱い方などもっとわからない。サイラスがいれば、サイラスに教えを乞うこともできるが、今は二人きり。どうしろというのだ。シェリル嬢を、どうやって泣き止ませればいいのだ。

「しぇ、シェリル、嬢……」
「……ご、ごめんな、さい。その……ちょっと、混乱してしまったようで……」

 シェリル嬢は俺が戸惑っていることに気が付いたのか、涙を必死で手で拭い、俺に顔を見せてくれる。その目は無理に笑っているようであり、無理やり作った笑みだということは一目瞭然だった。……本当に、こういう時に気の利いた言葉の一つや二つ、言えたのならば。俺なりに必死に気の利いた言葉を探そうとはするが……無理だった。本当に、女性を今まで寄り付けなかった弊害だろうな。

「な、泣くほど、辛かったのか……?」

 そうだ。もしも、ここでシェリル嬢が辛いといったならば。……そして、義妹たちに報復がしたいといったならば。俺が行動できる理由になるじゃないか。そんなことを思い、俺はシェリル嬢にそう問いかけた。すると、意外にもシェリル嬢は首を横に振った。

「ち、違うのです……。なんというか、その、一安心してしまって……」
「一安心?」
「ギルバート様、私のために怒ってくださった。だから、安心できたみたいです。いわば、ほっとしたから零れた涙、ということだと思います」

 シェリル嬢は、今度は綺麗な笑みを浮かべながらそういった。……シェリル嬢は、義妹たちへの報復を望まないのか。そう問いかけたかったが、きっと彼女は「否」と答える。それは容易に想像がついた。ならば、俺が出来ることはやはりシェリル嬢を精いっぱい守ることだけ。……もしもまた、攻撃してくることがあれば、冷静でいられる自信はないのだが。
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