【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
しかし、あたりを見渡しても誰もいない。……い、今のは、幻聴か何か? そうよね。ここにイライジャ様がいらっしゃるわけがない。幻聴、もしくは耳鳴りよ。
「イライジャ様は、エリカに惚れこんでいるはずよ。今更私のことなんて……気にも留められないはず」
――本当に?
そんなことを、私の脳が言う。再会した日。イライジャ様はエリカのことを愛おしいという態度ではなかった。私との婚約を破棄した日は、確かに「愛おしい」という態度だったのに。
「――シェリル様っ!」
そんなことを私が考えて呆然としていると、クレアが突然私にタックルをしてくる。そして、私は後ろに倒れこんでしまった。い、痛い。そう思って私がクレアに文句を言おうとしたのだけれど……クレアは、目を瞑っていた。その背中には焦げたような跡があって、その部分だけ侍女服は焼けていた。
「く、クレア? ねぇ、ねぇ……!」
ゆっくりとクレアの名前を呼ぶけれど、その目が開くことはない。意識を失っているだけならば、まだいい。だけど、もしもクレアが死んでしまったら……? そう思った瞬間、私の心臓が嫌な音を立て始めた。それだけじゃない。身体の中で何かがふつふつと湧き上がってくる。……嫌だ。嫌だ。
「ねぇ、ねぇ、クレア。目を覚ましてよ……!」
身体中が、熱くなってくる。この感覚のことを、私は仄かに覚えていた。……魔力が暴走してしまう、前触れだった。だから、私は必死に心を落ち着けようとする。ダメよ。ここで暴走してしまったら……クレアを、傷つけてしまう。
「いったん、深呼吸をして落ち着きましょう。そうよ、大丈夫。クレアは、大丈夫――」
「――シェリル」
そんな風に、私が心を落ち着けようとしたときだった。不意に私の手首が遠慮のない力で掴まれる。その強すぎる力に、私が顔をしかめれば「シェリル」ともう一度名前が呼ばれた。……嫌よ、嫌。この声は、会いたくない人の声だもの。
「シェリル。こっちを見ろ」
さらには、追い打ちをかけるようにそう言われる。違う、違う。彼は、ここにいるわけがない。そう思い強情に下を向いていれば、頬を挟み込まれて無理やり上を向かされた。……本当に、どうしてここにいらっしゃるのよ……!
「――イライジャ、様」
「よかった。忘れられていなかったな」
そこには、私の元婚約者で私を捨てたはずのイライジャ様が、不気味な笑みを浮かべて立っていらっしゃった。
「イライジャ様は、エリカに惚れこんでいるはずよ。今更私のことなんて……気にも留められないはず」
――本当に?
そんなことを、私の脳が言う。再会した日。イライジャ様はエリカのことを愛おしいという態度ではなかった。私との婚約を破棄した日は、確かに「愛おしい」という態度だったのに。
「――シェリル様っ!」
そんなことを私が考えて呆然としていると、クレアが突然私にタックルをしてくる。そして、私は後ろに倒れこんでしまった。い、痛い。そう思って私がクレアに文句を言おうとしたのだけれど……クレアは、目を瞑っていた。その背中には焦げたような跡があって、その部分だけ侍女服は焼けていた。
「く、クレア? ねぇ、ねぇ……!」
ゆっくりとクレアの名前を呼ぶけれど、その目が開くことはない。意識を失っているだけならば、まだいい。だけど、もしもクレアが死んでしまったら……? そう思った瞬間、私の心臓が嫌な音を立て始めた。それだけじゃない。身体の中で何かがふつふつと湧き上がってくる。……嫌だ。嫌だ。
「ねぇ、ねぇ、クレア。目を覚ましてよ……!」
身体中が、熱くなってくる。この感覚のことを、私は仄かに覚えていた。……魔力が暴走してしまう、前触れだった。だから、私は必死に心を落ち着けようとする。ダメよ。ここで暴走してしまったら……クレアを、傷つけてしまう。
「いったん、深呼吸をして落ち着きましょう。そうよ、大丈夫。クレアは、大丈夫――」
「――シェリル」
そんな風に、私が心を落ち着けようとしたときだった。不意に私の手首が遠慮のない力で掴まれる。その強すぎる力に、私が顔をしかめれば「シェリル」ともう一度名前が呼ばれた。……嫌よ、嫌。この声は、会いたくない人の声だもの。
「シェリル。こっちを見ろ」
さらには、追い打ちをかけるようにそう言われる。違う、違う。彼は、ここにいるわけがない。そう思い強情に下を向いていれば、頬を挟み込まれて無理やり上を向かされた。……本当に、どうしてここにいらっしゃるのよ……!
「――イライジャ、様」
「よかった。忘れられていなかったな」
そこには、私の元婚約者で私を捨てたはずのイライジャ様が、不気味な笑みを浮かべて立っていらっしゃった。