【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「シェリル嬢。ぐっすりと眠っていたようだが……疲れは、取れただろうか?」
「はい、おかげさまで長旅の疲れは取れました。あと、毛布ありがとうございました」

 私がぎこちない笑みを浮かべてギルバート様にそう声をかければ、ギルバート様は一瞬目を見開かれたものの、すぐに私から視線を逸らされる。それから数秒後、小さく「……そうか」とおっしゃった。……クレアとマリンの話を聞くに、ギルバート様は悪いお方ではなく、不器用なお方だ。……それから、大層な女性嫌いだった。

「……聞いてると思うが、寝顔は見ていないからな」

 その後、ギルバート様はそうつけ足された。……相当、寝顔にこだわっていらっしゃるようだ。いや、普通に考えれば寝顔は恥なのか。私に、羞恥心がないだけなのか。……寝顔は恥。少し、学習できたと思う。

「いえ、私にそこまで気を遣うことは――」
「――いや、シェリル嬢は嫁入り前だろう。……実家でどうだったのかは知らないが、ここでは丁寧に扱う……つもり、だ」
「……そう、ですか」

 正直、私は嫁入り願望がゼロなのだけれど。本当に、出来ればメイドとしてここで働かせていただきたい。そう思うけれど、口にすることは出来なかった。だって、ギルバート様は好意で言ってくださっているわけだし。その好意を無下にすることは、出来ない。

(っていうか、私ここにギルバート様の妻になるために来たのよね……?)

 そして、一瞬そう思う。父は、私がギルバート様を手籠めにすることを望んでいる。しかし、この私にそんなことが出来るわけがない。本当に。私が対人関係で弱いのは、父も知っているはずなのに。

「一ヶ月から三ヶ月ほどあれば、新しい嫁ぎ先も見つかるだろう。それまでは、ここに住んでいて構わない」

 ギルバート様はそうおっしゃると、お水に口をつけられた。……その仕草は、とても優雅で美しい。お顔は強面だけれど、このお方はそこまで怖い人ではないの……だろう。

「……承知いたしました。では、しばらくの間そのお言葉に甘えたいと思います」

 本音は隠して、私はそんな返事をする。……メイド願望、消えていないのだけれど。

 私がそう考えていると、私とギルバート様の前に数多くのお料理が並べられ始めた。……でも、ちょっと待って。コレ、すごく高価な食材を使っていないかしら……?

(……お腹、大丈夫、よね?)

 お腹が、高価な食材を受け付けなかったらどうしよう。ふと、そんな不安が私の頭の中をよぎった。
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