【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「旦那様。シェリル様を、お連れしました」

 それから約十分後。私はギルバート様の執務室の前に、立っていた。サイラスさんが扉越しにそう声をかければ、中でがたんと何かを落としたような音が聞こえて、私はびっくりとする。それに対して、サイラスさんはただ「慌てていらっしゃるだけですよ」とニコニコと笑みを浮かべて言う。……何を、慌てる必要があるのだろうか。

「は、入れ……」
「失礼、いたします」

 正直、私は執務室に来たくて来ているわけじゃないのだけれど。そう思いながら私がギルバート様の執務室に入れば、お部屋の中は少々散らかっていた。……先ほどのガタンという音は、どうやら重い本を落とされた際の音のようだ。

「サイラス。お前、何の用件でシェリル嬢を連れてきたのだ……」

 ギルバート様は、私にソファーに腰を下ろすようにとおっしゃると、サイラスさんを手招きしてそんなことを問いかけられていた。そうすれば、サイラスさんは特に気にした風もなく「デートのお誘いを、していただこうかと思いまして」などと悪びれもせずに言う。そのため――ギルバート様は、むせた。それはそれは、露骨にむせられていた。

「お前! 何を言っているんだ!」
「いえ、三日後に領地に視察に行くではありませんか。その際に、シェリル様に同行をお願いしてはいかがかと思いまして。女性を満足させるデートのプランは、すでに従者たちに立ててもらっています」
「余計なお世話だ!」

 サイラスさんとギルバート様は、そんなことを叫びあっていた。……仲が良いことは、いいことよね。私はそんなことを思いながら、側に寄ってきた侍女が出してくれた紅茶をのんびりと飲んでいた。
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